第23話 歌声
デルス国は煌びやかな宝石は勿論の事、魔力を増幅するなどの特殊な効果のある鉱石が昔から採れることで知られており、それを外交の輸出入の材料に使っていて、採掘するための坑道がいくつか存在してある。
勝達はゼロ達ドラゴン部隊が上昇し、弾幕から退避していくのを確認してから、坑道の奥へと進むことを決めた、この奥に入り込み、奥深くからデルス国に攻め入ろうとする流れになったのである。
「暗くってよく分からないな……」
坑道は、壁にランプがあった跡があるのだが、長年使っておらず、外側からの光が届いていない為、マーラは詠唱を始め、目の前に小さな火の塊が浮かび上がる。
「これでどう?」
「いいね、松明代わりか。この魔法はなんていうんだ?」
アレンは初めて見る魔法に興味津々である。
「狐火よ。ゴルザさんが教えてくれたのよ」
マーラは得意げな表情を浮かべている。
「そっか、俺も教えてもらおうかなあ……」
「……」
ゴルザの名前が出て、トトスは複雑な表情を浮かべている。
(確か、トトスさんと、ゴルザさんは……)
数年前、魔封じの術が完成間近になった時に、ゴルザは急に列強の傘下に加わる事を進言し、トトスと喧嘩になり、もうやってられないと言い残して国を去った。
その理由は詳しくは聞いてはいなかったのだが、真面目で勤勉だったゴルザはある日を境に、享楽派になったのである。
地下道は河川の中にあるのか、足首まで水が出ており、冷たい、嫌な感触を勝達は感じながら、この奥に行けば何かがあるのだろうという期待と、でも結局何も無いんだろうなという失望の入り混じった表情を浮かべながら歩いている。
「!?」
勝は何かに気がつき、周りを見渡す。
「どうしたんだ!? 敵か!?」
アラン達は慌てて身構える。
「いや、これは……歌声だ! 歌声が聞こえる! この奥に何か人がいるぞ!」
「歌声だって!? お前よくこんなところで声なんて聞こえるな……! こんな人がいない場所に吟遊詩人でもいるってのか、こんなご時世に……?」
ヤーボは五感が極限まで高めている勝の能力に深いため息をつき、勝の後をつく。
鉄格子のような物質が狐火の下の元、彼等の目の前に朧げに映され、誰かが幽閉されているのでは無いか、それとも化け物なのかと彼等は想像し恐怖を覚える。
「うん……勝の言う通りに、確かに聞こえるわ! この先に歌声が確かに!」
マーラもまた耳はよく、勝が聴こえた歌声が耳に入ってきている。
「行くぞ!」
彼等はこの国に攻め入るのに何かしらの手がかりがあるのではないかと淡い希望を持ちながら、鉄格子の前まで足早に進める。
「……?」
牢屋の中には、一人の、縮れた長い髪の女性らしき人物がおり、小鳥のさえずりのように囁くように歌っている。
「何だってんだ、ありゃあ……」
「変な野郎だ……行きましょう」
アランとヤーボは口々にそう言い、目の前に幽閉されている人物が頭がおかしくなり入れられているのでは無いのかと思い、関わるだけでも時間の無駄だなと呟く。
「いや、何か役に立つ情報を知っているのかもしれない。聞いてみよう、トトス、鍵を開けてみてくれ」
「ああ、そうしよう、何かあるのかもしれないからな……」
アレンに言われ、トトスは手を鍵穴にかざし、詠唱を始める。
「うん?」
「どうしたんだ?」
「これには強力な魔封じの呪文がかけられている……!」
魔封じの呪文と聞き、彼等は深刻な表情を浮かべる。
「なんだと!? 折角の我が軍の切り札が、敵が使うってのか!? 参ったぞこれは……」
「いや、この国最強の魔導師、ヘッジならば、もしくは……」
トトスは何か思い当たる節があるのが、顎に指をあてて考える。
「兎も角、誰か鍵を開けれるものはおらんか!?」
「こいつ、開けれます」
ヤーボはアレンの手を掴んで上げる。
「ほう……」
「こいつ、女湯に忍び込もうとして監禁されたんすよ!」
ヤーボの一言に、周りはどっと笑いの渦が巻き起こった。
「どうしょうもねーなぁ……ともかく、早く開けてくれ」
アランは笑いを堪え、アレンに早くやるように促す。
「は、はい……」
アレンは、皆に知られたくはない秘密を知られたのか、チェッという表情を浮かべて、針金を取り出して、南京錠を開けている。
(女湯ったって、本当にどうしょうもないなこの人は……)
勝は、とっくに思春期は過ぎたはずなのだが、10代の学生のように異性に対して貪欲なアレンを見て、人としての最低限の道徳心はないのか、この国の人間はおかしいのではないかと憂い、ため息をついた。
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