第22話 魔封じの術

 魔封じの術の儀式は、デルス国を見渡せる小高い丘の上で行なわれる。


 術を使うゴルザの護衛をヤックルと魔導師、竜騎士部隊が20名のチームを組み、術が終わるまで護衛にあたる。


 敵陣への切り込み部隊には勝とアレン、マーラがその役目を果たされ、トトスとアラン達主力部隊は勝達が進行次第に攻撃を任されることになった。


「とうとう始まっちまうんだな……」


 アレンはまだ死にに行く覚悟が決まっておらず、今すぐにでも逃げ出したいのか、ぼそりと勝に呟きため息をつく。


「詠唱が始まるぞ……」


 兵士の誰かがそう言い、勝はごくりと息を飲んでゴルザを見つめる。


 ゴルザは地面に座り、手に印を結び何かを呟いている。


 それは、法事の時に実家に来て念仏を唱えるお坊さんそっくりだなと勝はフフフと笑い、真剣な眼差しをするゴルザを見やる。


「……!」


 50秒程、彼らには理解できない異国語での詠唱が行われ、ぐにゃり、と空間が歪み、勝達は今まで感じた事がない恐怖と感動を入り混ぜたような感覚に陥る。


「……上級の、空間魔法か!」


 トトスは自分の孫が、もう自分とは比べ物にならない程に成長したのだなと、到底自分の実力では使う事ができない魔法を見て、感嘆の声を上げる。


「おじいちゃん、今のうち行ってくれ!」


 ゴルザは、額に大量の脂汗をかきながら、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような、馬鹿のように呆気に取られているトトスや勝達に慌ててそう言い、眉間にシワを寄せて祈り始めている。


「よっしゃ、行くぞ! ゼロ!」


 勝はゼロの背中に飛び乗り、アレン達に行こうと手で合図をする。


「グギャア!」


 ゼロ達竜騎士部隊は、魔封じの術が切れないように、急いで飛翔をしてデルス国に入り、上空から司令官がいそうな場所を探す。


 地面には、ここ数年で全く敵国との戦争が無かったのか、それとも、列強の傘下に加わった余裕なのか、街中にいる兵士や国民達が、状況を理解できていない面構えをして、上空から攻撃を仕掛けようとしている勝達をボーッと見ている。


(どこにあるんだ、この国の重要な場所は……確か、我が日本では、司令部の基地は洞窟など、敵に見つからないような場所に移動していたのだが……)


 勝は、上空を旋回しながら、もしかしたら、地下にあるのではないのかなと予感めいた確証を胸に抱きながら、それらしき怪しい場所はないかと、裸眼視力が3.5まで向上した目で血眼になり地面を見ている。


 刹那、勝達の目の前では、花火のようなものが炸裂をし始める。


「大砲だ!」


 アレンはそう叫び、慌てて上昇回避を始める。


「ちょっとねぇ、なにどさくさに紛れてお尻触ってんのよ! 引っ叩くわよ、このクソ野郎!」


 マーラの声が勝の耳に聞こえ、どうしょうもない人なんだなあ、人格ができてないんだなと勝はため息をつき、ゼロに砲弾が当たらないように上昇を始める。


「おい勝! なんだありゃあ!?」


「!?」


 勝達の目の前には、黒い塊が幾つか見え、それがグレードラゴンだと分かるまでさほど時間はかからなかった。


「あれはグレードラゴンだ! 数は……ざっと見ても30……いや、50匹はいるぞ!」


「何!? おいやべえ、こんな役目投げ出して、とっととおさらばすんぞ!」


 アランはひええ、と情けない声を上げており、非国民だなこいつはと、勝は再度深いため息をつく。


「いや逃げるわけにはいかん!」


 勝はゼロの首の手綱を引き、グレードラゴンの群れへと単身攻め入れようとするのだが、砲弾がゼロの腹へと炸裂し、ギエエ、と苦痛の声を上げて高度を落とす。


「ゼロ!」


 ゼロはふらふらと下降を始めており、このままでは無駄死にだ、どうすりゃいいんだと勝はそんなにIQがずば抜けて高くはない、平均並みの知能をフル回転させて、辺りを見回す。


「……!?」


 勝の視界には、地下道のような入り口が下水道に見え、これは何かあるぞと閃き、ゼロに降りろと命令をする。


「こっちに、入り口があるからはいるぞ! ゼロ、国の外で待っていろ!」


 ゼロは勝を地上に下ろした後、急いで上昇を始める。

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