第21話 グレードラゴン

 作戦会議は司令部で行われ、集会所にいる勝達下級兵士に作戦内容が告げられ、改めて出撃となる。


(いったいどんな作戦になるというのだ……? お世辞にも我が日本軍の作戦は良かったとは言えなかったのだが……)


 勝は国民には知らされてなかったのだが、ミッドウェー海戦で大敗を喫した事を知っており、その時と同じような過ちがこの世界でも起きるのではないかと不安な気持ちに襲われる。


「ふわぁ……」


 隣では、前日に浴びるほど酒を飲んだのか、アレンが二日酔いで顔が腫れており、頬にはミミズ腫れがあり、みっともない大きな欠伸をする。


「アレンさん、非常事態だぞ……結局昨日は何時までいたんだ?」


「え、いやさ、お前らが行った後にすぐに帰ったんだがよ、これさ、マーラに引っ叩かれたんだよ……」


 アレンは痛そうな表情を浮かべ、指でミミズ腫れがある場所をつんつんと触る。


「一体何をしたんだ?」


「いやさ、どうせ俺ら生きて帰れるか分からないべ? 最後にしようかって話をして胸を触ったら思い切りビンタされてさ、酷いべあの女……」


「はぁ……それは、誰でもそうやるだろう?」


 勝は、こんなどうしょうもないろくでなしの男がこの国を背負って立つ兵士でいいのか、非国民だなと深いため息をつく。


「俺は昨日ヤッたもんね」


 ヤーボはニヤニヤと、何かに勝ち誇った笑みを浮かべている。


「何ィ!? 畜生、羨ましいな……」


 アレンは、自分とさほど顔のスペックとコミニュケーション能力が変わらないヤーボを見て、何故こんな奴がセックス出来るのかと、不思議で圧倒的な悔しさに襲われる。


「巨乳の子でさあ! 最高だったなぁ!」


「でも、こいつがやった女、デブだったんだよ!」


 昨晩ヤーボと行動を共にした仲間は、売春宿に来た風俗嬢がデブだったとクスクスとわらいながらはやしたて、アランはダメだなと笑い飛ばす。


「誰か来たぞ!」


 勝は歴戦をかいくぐってきている為、視覚と聴覚がずば抜けて高く、カツコツという廊下から聞こえるほんの小さな物音に気がついて彼らに注意をし、アレンたちは慌てて私語を慎む。


 扉が開くと、トトスとアラン達が、やれるだけのことはやるぞという決意を固めた表情を浮かべて部屋に入ってきて、勝達は慌てて敬礼をする。


「皆の衆! これから作戦を説明する!」


 とうとう戦が始まるんだな、と彼等は諦めに似た表情を浮かべ、アレンが持っている紙に視線を向ける。


 🐉🐉🐉🐉


 デルス国は大陸の右隅、ムバル国から100キロほど離れたところにあり、徒歩では日が暮れる為、彼等はドラゴンに乗りながら移動を始める。


(魔封じの魔法を使い結界を一時的に使えなくして、国王の息の根を止めるか、身柄を拘束して、停戦に導き封印されし破壊魔法を手に入れろ、か……しかし、元の世界にいた時には考えられない、ある意味滅茶苦茶な内容の作戦だなこれは……兎も角、やるしかない、な……)


 勝はゼロの首筋を撫でながら、これからあと半刻程したら迫りくるであろう、異常ともいえる脅威に、米兵と戦う時以上の恐怖を感ドレのだが、それでもこれが運命なんだなと、気を引き締めて目の前にある光景を見やる。


 地上からは、バージェスという、競走馬のような引き締まった身体にカバのような顔をつけたこの世界でいう移動手段に使う奇妙な風体の動物がトトスやゴルザ達魔導師部隊を引き連れて進んでおり、勝達は彼等を護衛するように速度を落として飛んでいるのである。


 30分程飛んでいると、彼等の目の前には、大きな城のある集合した住居が見えてきており、とうとう来てしまったんだなと勝はため息をつく。


「デルス国が見えた! 早速敵さんがきたぞ! 総員、戦闘準備にかかれ!」


(デルス国には千里眼の水晶玉があると聞くが、俺のいた世界で言うレーダーのような物なのか……? 何れにせよこの戦いは一筋縄では行かなそうだ……!)


 ボンボン、という大砲の炸裂する音が響き、迂回をしてドラゴンから降りろ、とアレンから指示を受けた勝達は、近場に降りれそうな場所を探す。


「……ん!? なんだありゃあ!?」


 仲間の一人が、異常を察知した声で何かを言う。


 勝は何事かと、辺りを見回すと、翼のついた生き物が数匹、勝達の元へと向かっており、勝達はそれに見覚えがあった。


「ドラゴンだ!」


「んな、竜騎士はいなかったはずじゃなかったのか!? 魔導師が主体だった筈では……?」


「兎も角、突破して攻めるぞ! 総員、戦闘態勢に入れ!」


 アランの鶴の一声に、彼等は身構え、速度を上げる。


「ギャァ!」


 火炎が勝達の元へと襲いかかり、彼等は散開して避け、いったいどのようなドラゴンなのか勝は気にかかりちらりと見やると、灰色の鱗で覆われており、自分が学んだドラゴンの種類にそんなものはいたのだろうかと頭を捻る。


「グレードラゴンだ!」


 魔石から、アレンの声が聞こえ、聞いたことがないドラゴンだなと思い勝はアランに尋ねる。


「アレンさん、グレードラゴンって何だ!? 新しい種類なのか!?」


「いや、ただ言ってみただけだ!」


「何だよ!」


 勝はアレンの無学さに軽く絶望しながら、ゼロの手綱を操作して敵のドラゴンへと向かう。


(速度は同速か……防御はどうなんだ!?)


 ゼロは勝の心の中を知っているのか、炎を吐けと言う前に口から炎を吐き、グレードラゴンへと浴びせかける。


「やったか!?」


 グレードラゴンは鱗が頑丈な為か、炎は全く効かず、軽く焦げただけであり、ゼロの追撃を避けようと急降下を始める。


「ゼロ! 急降下だ!」


 勝の一言にゼロは反応して、グレードラゴンを追尾するかのように急降下を始め、炎を浴びせかけているのだが全く効くそぶりはない。


(炎が効かないのか……ならば、これではどうだ!)


 ゼロはかなり接近をし、勝は手に持っている、ドラゴンの鱗を貫くという、ドラゴンのツノを加工して作られた槍をグレードラゴンに突き刺す。


 グレードラゴンの肉体が外部の刺激に過敏に反応するのを勝は槍越しに感じ、茶褐色の血を流して地面に落ちていくのを見て、勝は安堵のため息をつく。


「ワレ、ドラゴン一匹撃墜ス!」


「いや、なんだよそれ!?」


 勝はつい、零戦で空戦中に撃墜した事を無線で話す癖が出、アレンに突っ込まれ、大戦中の応答なんて、ここの世界の住民は誰もわからないんだよなと思い、他のドラゴンの追撃に向かった。


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