第19話 封印の洞窟その③

 彼等の目の前には、無数のコードが張り巡らされ、数字と文字が書いてある突起物がついている箱状のものが何個も置かれており、直径40センチほどの透明なガラスのようなものには、ピンクと赤を混ぜたような、色鮮やかな宝石のような物体が浮かんでいる。


 無論それは、この世界には存在しないものであり、当然の事ながら勝がいた世界でも、このようなものは存在はしておらず、恐怖に似た驚きを感じている。


「これは何だ……?」


 エレガーは、この奇妙な部屋の中を興味津々に見つめている。


「!?」


 勝は不審者のように挙動不審でジロジロと周りを見回して、興味をそそられるあるものを見つめる。


 テーブルらしきものの上には、書類が散乱し、拳銃のようなものが転がっており、それは厳密に言えば拳銃のような形を取っているのだが、明らかに勝の所属していた部隊のものではなく、捕虜にしたアメリカ兵が使っているものに似た形状をしている。


「どうしたんだ? 勝?」


 アランは、勝が何かとんでもないものを見つけてしまったのではないかと不審に思っている。


「これは、拳銃……なのか?」


「拳銃? それは、武器か何かなのか?」


「ええ、私達の世界では、銃というものを使い敵と戦う。これがその武器に当たるんだが……いや、見たことがないな、この形状は……」


「それよりも、この宝石の事だ」


 エレガーは、筒に大事に入っている宝石を見て、ただらならぬものを感じている。


「これは、禁じられし宝玉に似ているのだが……」


「禁じられし宝玉とは?」


「それはね、彼の国の伝説でな、禁じられし洞窟の奥深くに、宝玉が眠ってて、それを手に入れるものは全てを葬り去る力を手に入れるであろうって話さ……」


 ゴルザは、目の前に浮かんでいる宝玉を、怪しそうに見つめている。


「兎も角これは預かっておこう、何か使えるかもしれぬ……」


 トトスは勝から拳銃を取り上げて、物珍しそうにペタペタと触り、この突起物は何かと、とうとうトリガーに指をかける。


「トトス司令! それは……」


 勝は慌ててトトスに注意するのだが、時すでに遅く、銃口から発せられた光の弾丸が宝石の保管されている筒に当たり、容器は割れてしまう。


「な、何だこれは……!? 新しい兵器なのか!?」


「これは、人を殺すためのものなのです! しかし、この弾丸は一体……?」


「ふぅーむ、これならば使えるかもな。よし、早速王に報告だ。筒の中にある宝石も何か役に立つのかもしれない、この部屋の中にあるものを持てるだけ持っていくぞ」


 トトスの言葉に周囲はうなずき、泥棒のように物色を始め、まるで、中国戦線に少し配属になった時に日本軍が現地の人にしていたことそっくりだなと勝は思い、彼等に混じり色々なところを探す。


 ゴルザは筒から宝石を取り出し、トトスに見せる。


「おじいちゃん、これは使えるのか?」


「ふぅーむ、目立った魔力は感じないしなぁ、取り敢えずこれは、エレガー、貴様に預ける。これを魔法研究所で魔力の解析にかけろ。伝説に残るぐらいだから、炸裂弾ぐらいの威力はあるのだろう、多分」


「はっ、かしこまりました」


 エレガーは、枯れ枝のようなシワだらけの手で宝石をトトスから貰いうけ、物珍しそうにまじまじと見つめる。


 🐉🐉🐉🐉


 瞬間移動魔法で彼等が根こそぎ持ってきた、封印の洞窟に眠っている物品を、カヤックは不思議な目で見つめている。


(独り占めする気なんだろうな……にしても、吐き気がする……!)


 勝は相変わらず瞬間移動魔法に慣れておらず、ラバウルで輸送船で出かけた時と同じかそれ以上に船酔いのようになっており、強烈な吐き気に襲われている。


「これが、伝説の宝石か……」


 カヤックは成金のように、輝く宝石に目がないのか、下卑た目つきで宝石を見ており、敵地の住宅街から貴金属を強奪した、どちらが敵で味方なのか分からない、道徳心のない上官そっくりだなと勝はため息をつく。


「はっ。これから解析にかけようかと……」


 エレガーは淡々とカヤックにそう伝える。


「早急な解析を頼む。勝、この拳銃という武器は見覚えはあるのか?」


「ええ、これは、拳銃といって、弾が出て人を殺すために作られたものです。くれぐれも人に向けてはいけません……」


「そうか……これは、貴様に託す、これを上手く使ってくれ、もし他の者がうまくつかいこなせるようであれば渡しても構わん」


 カヤックは、指輪が5つぐらいはめられた指で拳銃を掴み、勝に手渡す。


「はっ……」


(米軍が使っていたものとは少し違うな、後で試験してみよう……)


「その書物も解析しよう、これに書いてある文字に君は見覚えはあるのか?」


「ええ、これは、英語でして、私の住んでいた世界の敵国が使っている言語です。なぜここで使われているのか、申し訳ないのですが、私にそれを読むことは出来ません……」


「そうか……」


 洞窟内にあった書物は全てが英語であり、その大半が何かの数式や記号である為、英語はおろか、化学や数学の専門的な知識を戦時中の日本の予科練で学ぶ機会はなく、何か重大なことが書いてあるのは間違い無いのだが、それを解読できない事を勝を初めとして他の研究者達は唇を噛み悔しさを押し殺している。


 外からドタドタという足音が聞こえ、何事かと彼等は扉の方を見やる。


「失礼致します! デルス国王ゾーイ卿から、閣下宛に最重要項電報が入りました!」


 小太りで、少し高価そうな服を着た、中年期に差し掛かっているのか、やや顔にシワができてたるんでいるその男は、深刻そうな表情を浮かべて、走ってきたのか息は荒く、体をふらふらとさせながら手紙をカヤックに手渡す。


「うむ、ご苦労……ふむ……そうか……」


 深刻で、そして何かを決意しているカヤックな表情をアレン達は見て、小太りの男の言う通りに出鱈目ではなくこれはただ事ではないな、戦争なのかと、戦う為に訓練をしてきていて準備はできているのだが、心の準備がまだできていない彼等は、列強と戦争したらまず負けるだろうと絶望している。


(とうとう戦争が始まるのか……?)


 勝は、元の世界では軍人であるのだが、元々が穏やかな性格で平和主義者であり、争い事は避けたいのだが、元の世界に帰る為にはこの戦争に勝つのが必要なんだと割り切った考えをしている。


 カヤックは手紙を読み終えて、トトスに手渡し、深く深呼吸をして口を開く。


「皆のものに告ぐ! たった今さっき、無条件降伏を一週間以内に行わない限り、列強の連合軍と共に総攻撃を掛けるとのお達しがあった! ここで、国民のために逃げるわけにはならぬ! 明日切り込みを入れる! デルス国には、研究途中の魔法があり、それは強大な威力を持つ! それのデータを手に入れ我が国のものにし、この戦争に勝つ!」


「おおっ!」


 彼等はこれから迫り来る戦争を必ず勝つと決め、いきりたった。

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