第16話 魔封剣

 出撃前夜での一件は、すぐさま司令部へと話が伝わり、勝の持っている剣の成分は一体なんなのかという徹底的な解析がエレガーを初めとする研究者達によって行われ、それが終わるまでは待機という事になり、勝達は死にたくない、という一心で必死に今までとは比べ物にならない真剣さで訓練を行っている。


「ゼロ! 左捻りだ!」


「グギャア!」


 アレンとの模擬空戦、得意のドッグファイトに勝は誘い込み、零戦のお家芸、左捻り込みによりすぐに後ろにつき、訓練用の木製の槍でアランの頭をぽかんと叩く。


「痛ぇよ馬鹿野郎! 手加減しろや!」


 アレンは頭を触りながら、後ろを飛ぶ勝を睨みつける。


 この部隊で勝に勝てる者は隊長のアランしかおらず、アランとの実力差も日に日に縮まってきているのである。


「なに、アレンさんも腕を上げたではないか!」


「俺はなにをやらせてもうまいんだよ!」


 アレンもまた器用であり、ドラゴンの扱いにはすぐに慣れ、勝の次の腕前になっていった。


(器用だなこの男は……。元の世界に居たら、多分戦地でエースになっていただろうな……)


 勝はアレンの才能が自分と同程度ぐらいだなとライバル心を持ち、お互いを意識しているのである。


 彼等は連れ添って飛行しながら、基地へと帰還する。


 眼下に広がるドラゴンの着陸場所には、トトスとエレガー達ムバル国軍上層部の人間達が、勝達を今や今やという目で、勝達の帰還を待っているのが勝達には見え、これはただ事ではない、あの剣の解析が終わったのかと思案にかられる。


 🐉🐉🐉🐉

 ムバル国円卓の会議室、勝はエレガーやトトス達と共にドレ長老が持っている、ジャギーがくれた父親の形見の剣をまじまじと見ている。


「この剣の解析が終わった……これは、魔封剣だ……」


「魔封剣……え? 伝説の、ですか……?」


 魔導師部隊副隊長のタドムを始めとして、他の兵士達は、もの珍しい顔つきで魔封剣と呼ばれる剣を見やる。


 勝はその光景を見て、不思議な気持ちに襲われる。


「この剣だが、刀身には採掘し尽くしたと言われている、ピンリル鉱石が使われている。何故これがジャギーが持っているのかが疑問なのだが、父親の形見、と言ったな……?」


 トトスは不思議な顔つきを浮かべて勝を見やる。


「ええ、そうみたいですね……」


 この場に呼ばれたジャギーは、勝に手渡した剣が魔封剣だという事を父親のジョセフから聞いておらず、この戦争に勝てるんじゃないのかという淡い期待の意味での動揺を隠せないでいる。


「ジョセフの形見か……いや、あいつならば持ってても……まぁ、それはいいとして、これならば、そこら辺の魔導師など恐れるに足らないのだが、問題がある……勝、この剣を持て」


「は、はぁ……」


 勝はトトスに言われるがまま、魔封剣を手に取る。


「火球」


「うわぁっ!?」


 トトスの指から出てきた炎系魔法の中級の火球を、勝は慌てて剣でなぎ払うと、火球は刀身に吸収されて消えていった。


「この剣の問題点は、お前だけにしか使えないことだ。他の兵士で試したが効果を発揮しなかった。まるでこの剣が、持ち主を選んでいるかのようなのだ。勝、この剣はお前が使え、貴様を切り込み部隊に任命する。マーラ、ヤックル、アレンの少人数で切り込むのだ……」


「は、はっ」


(こんな、刀身が黒いだけで珍しいのだが、この剣にそんな力があるのか……ならば、この戦争にひょっとしたら勝てるのかもしれぬ……!)


 彼らの驚きように、勝もまた、この戦争に勝ち目があるのではないかという希望が体の奥底から湧き上がってくるのである。


 切り込み部隊に任命されて、臆病風に吹かれたのかアレンが軽く、ひえっと言った時に、ドアが勢いよく開く。


 そこには、結界を長時間張っていることでかなり疲弊しているのか、毛髪の大半が白髪となり、重症患者のように頰が痩せこけたエレガーと、カヤックがいる。


「どうしたんだ? エレガー? 閣下まで……」


「封印の洞窟が開いた……」


 カヤックは渋い声で、彼らにそう告げる。


「!? あれがですか!? 大砲を当てても全く開かなかったのに……!」


 トトスの言葉に、この国の地形に疎い勝の頭はますます混乱する。


「その、封印の洞窟とは……?」


 勝は、封印の洞窟という言葉が初めて聞く言葉であり、一体どんな場所なのかと不安に駆られる。


「紀元前の遺跡が眠ると言われている洞窟だ、大きな岩に囲まれていて入れなかったが、入れるようになった。その洞窟には昔の兵器があるらしい。作戦変更だ、封印の洞窟で紀元前の遺跡を発掘しろ、ひょっとしたら、虹色の聖杯がまたあるのかもしれん……我が軍が勝つのにはあれが必要だ……!」


「はっ……!」


 アレンは軽く息を吐き、返事をした。


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