第三章:初陣
第14話 覚醒
ムバル国には一応軍隊という組織はあるのだが、長年の停戦協定で兵力は縮小されており、他国に攻めるよりも自分達を守る為の、現代日本でいう自衛隊に近い国防軍という組織に変わっている。
国防軍には竜騎士部隊と魔導師部隊があるのだが、アランと勝は一番部隊という部隊に配属になった。
長老による結界は、長老自身の高齢に伴う病の悪化で日を追うごとに徐々に薄くなっており、代わりにエレガーが結界を張ることになったのだがまだ不完全であり、デルス国から放たれる魔法弾の貫通を許してしまい、少しずつ被害が出始めている。
このままではまずいと周囲は思っているのだが、行動に移せない、魔法国家のデルス国と一戦を交えることになるとなれば、当然の事ながら魔力に雲泥の差があり多数の死傷者が出るのは明白であるのだ。
列強の隷国になるか、それとも、この戦争に勝つか――
そのテーマで軍の中枢部や国王達が揉めている間、勝達は手懐けたドラゴンで早速とばかりに模擬実戦訓練に日々を費やしている。
あくる日の午後、竜騎士部隊の訓練所にて――
「行くぞゼロ!」
勝は、手懐けたレッドドラゴンにゼロという名前をつけた。
ゼロの年齢は、人間に換算すると25歳ぐらいであり、勝と同年代である。
人間というものはきっかけがあればガラリと変わるものであり、訓練生時代にドラゴンに全く相手にされなかった勝はゼロと出会い、ドラゴンの操縦技術をスポンジのように瞬く間に吸収した。
「グギャア!」
ゼロは人間に接するのは初めてだったのだが、勝の誠実な人柄に惚れており、勝と共に訓練に精を入れている。
彼等の目の前には、米粒大になったアレン達がおり、勝は久し振りに自分の力で空を飛んでいる事に、予科練時代の時に鬼のように厳しい教官の後ろで赤トンボと呼ばれる複葉機に乗って飛んでいた事を思い出す。
「よーしいい子だ!」
勝はゼロの首筋を撫でて、不穏な表情を浮かべて上空に浮かび上がる、先程砲弾が命中してヒビが入った結界を見やる。
(もうこの国には時間がない……! 俺は魔法というものはよくはわからないが、銃や爆弾とは比べものにならん……! 戦うしかないのか? この、ひ弱で小さなドラゴンで……! 勝てるのだろうか……? だがゼロは、他の連中達のドラゴンよりも一番弱い、真っ先に死ぬだろう、一体どうすれば良いのだろうか……?)
「ヘイ勝!」
「!?」
勝は、無線機と似たような役割を持つ、遠く離れたところでも言葉のやりとりができるカーム石という不思議な石を首から下げており、そこからヤーボの声が聞こえて後ろを振り返るが、そこには無限の空が広がっている。
「ここだ!」
勝よりも高度が高い場所から、イエロードラゴンに乗っているヤーボが勝達に向かい飛んできている。
「ゼロ! 引き離すんだ!」
「グギャア!」
ゼロは勝に言われて速度を上げるのだが、ヤーボにすぐに追いつかれてしまい、棒切れで勝は頭を軽く叩かれた。
「クソッタレ!」
「そんなドラゴン使えねーよ! ハハハ……!」
ヤーボは勝に毒づきながら、勝を追い抜き飛んで行く。
「しっかりせぬか、この馬鹿!」
勝はゼロの肩をバンと叩き、唇を噛み締めながら基地へと進路をとる事にする。
🐉🐉🐉🐉
訓練が終わり、夕闇の帳が降りた深夜、勝はなぜかアランやヤーボ達と酒を飲む気にはならず、オモコを吸いながら国の中心部に位置する噴水に腰掛けて溜息をついている。
(なんて弱いドラゴンなんだろう、あれでは勝てない、アラン隊長が乗っているホワイトドラゴンではないと勝てない、あれはこの大陸最強なんだ……。クソッタレ、ゼロを野に放して別のドラゴンを手に入れるか? だが……あれはあれで可愛い奴だ、だが……)
「寝れないようだな」
足音や気配がなく、不意に誰かから声をかけられて勝は後ろを振り返ると、そこにはエレガーがいる。
「エレガーさん……」
エレガーは一日中慣れない結界を張っていたのか、顔は窶れており目は少し窪み、髭を剃る余力がなかったのか無精髭が生えている。
「悩んでるようだな、ゼロの事で……」
「分かりましたか……実は、そうなのです」
勝は、この人には全て御見通しなんだなと観念して、口を開く。
「うむ、長老から人の心を読む術を教えてもらったからな俺は……ある程度ならば読める。ゼロだが……」
「勝てないのです、部隊の人間誰一人としても。全く歯が立ちません、野に返して、新しいドラゴンを手に入れようかと……」
「君の前にいた世界では、零戦という緑の鳥でどうやって戦ってきたんだ?」
「零戦は、速度は遅いのですが、防御と引き換えに広大な航続距離と小回りのきく機体で旋回が得意でそれで戦ってきました。巴戦では負けません……」
「ほう、そうなんだな、頭の中で君が想像するものがイメージできた。レッドドラゴンと零戦には共通点がありそうなのだが……」
「零戦は小型でしたが、高速では戦えないのですよ……ゼロは、早く飛べないし、体が小さいから小回りが効く……ん? いやそれは……んん?」
「気がついたようだな、共通点が。ならば、君が想像するような戦い方をしたほうがいいのではないか?」
「は、はい! 有難うございます!」
勝は何かに目覚めたのか、喧嘩好きの高校生の如く血走った目つきで宿舎の方へと足を進めていく。
その様子を見て、エレガーはニヤリと笑い、オモコを口に加えて火をつける。
🐉🐉🐉🐉
ドラゴン達が暮らす宿舎に、勝は、何かを謝りたい顔をして入って行く。
「グオオ……」
「グギャア……」
幾ら正規兵で何度か顔を合わせているとはいえ、ドラゴン達にとってみれば勝は異質な存在なのだが、勝に手を出してはならないと調教師や兵士達に躾けられており、勝に異質なものを見るような目つきでジロリと見て、宿舎の隅の方へと体を進ませて眠りを貪ることを決めた様子である。
「グギャアギャァ……」
宿舎の隅には、ゼロがおり、勝を愛おしい目つきで見ている。
「ゼロ……」
勝はゼロの方へと足を進める。
ゼロは勝に顔を近づけて勝の顔を舐める。
「お前をこの国最強のドラゴンにしてやるぞ……! もう弱いだなんて言わせないからな……!」
「グオン……」
勝はゼロの頭をくしゃくしゃになるまで、撫でてやる。
「……」
その様子を、ホワイトドラゴンのジークの様子を見にきた一番隊隊長のアランはニヤリと笑って静かに見つめている。
🐉🐉🐉🐉
勝達は筋トレとマラソン、格闘術の訓練を3時間行った後、食事をして休憩をして、午後からのドラゴン対ドラゴンの空中戦訓練を行う事となった。
「ヤーボさん、俺と勝負をしろ……!」
イエロードラゴンのオスカーの頭を撫でているヤーボに向かい、勝はこれ以上舐められたくはないという顔つきでそう言い放つ。
「ほう、良いよ、まぁどうせ俺の勝ちだがな、そんなひ弱なドラゴンじゃあな……俺が勝ったら何をくれるんだ?」
ヤーボは勝を見下した顔つきで見ている。
「イマタウを奢ってやる、代わりに俺が勝ったら、二度とゼロと俺のことを馬鹿にするな……」
「ふん、良いぞ。早く退役して惨めに暮らすのがお似合いだがな……」
勝はヤーボの傲慢な態度に腹を立てながら、ゼロの元へと足を進める。
「グギャア……」
ゼロは周りに萎縮してしまったのか、情けない声を上げているのだが、勝はゼロの頭を撫でてやる。
「ゼロ、昨日話したこと通りをやればこいつらには勝てるからな……!」
ヤーボ達が一足先に飛び立ったのか、翼がはためく音が勝の耳に聞こえてくる。
「勝、あいつかなり強いぞ、ってか、勝てないよその種族じゃあ……」
アレンは不安そうに勝にそう伝えるのだが、勝に考えがあるのだろうと感づいており、部隊の中で同期に傲慢な態度をとるヤーボにお灸を据えてくれと言いたげな目つきで勝を見やる。
「いや、俺が勝つさ、絶対にな……!」
勝は意気揚々と、ゼロの背中に乗った。
ゼロは翼をはためかせて飛び立つ。
勝の眼下に映る光景が小さくなり始めた頃に、同じ高度を並んで飛んでいたヤーボの乗るオスカーは速度を上げて勝達に向かって突進してくる。
「やはりな、来たな! ゼロ、昨日言った通りのことをやるぞ!」
突進してきたオスカーは、口から稲妻を吐き出そうと大きく口を開いているのだが、ゼロは翼を止めて失速させて再度翼をはためかせて、オスカーが通り越すように仕向ける。
ゼロは身体を巧みに動かして左旋回をして、オスカーの背後にピタリとくっつき、勝はヤーボの頭を訓練用の槍で軽く叩く。
「どうだ!?」
「何ぃ!? クソッタレ、俺の負けだ!」
その様子を、地上からアレン達はニヤリと笑いながら見ている。
「あいつ、覚醒しやがった……! これから忙しくなるぞ……!」
アランはアラン達兵士にそう言って、ジークの頭を撫でる。
刹那、次元が歪み、白髪交じりのオールバックの所労の老人が複雑な表情を浮かべてアラン達の元へと現れる。
「トトス隊長、何か急用でしょうか……?」
この国で数名しか使えない、次元移動魔法をわざわざ使い、魔導師部隊隊長でもあるトトスが現れるのは尋常ではないとアランは思い、深刻な表情を浮かべる。
「デルス国から、宣戦布告が告げられた……!」
「な、やはり……!」
とうとう戦争が始まったんだなと、アランは溜息をつく。
トトスの発言に周囲は戦争が始まったのだなと騒然となり恐怖に襲われる。
「グギャア!」
「勝ったぞ!」
勝は今重大な何かが起きているのか知る由もなく、ヤーボとの模擬空戦に勝った事をどや顔で話そうとする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます