第9話 煉獄
勝達は訓練が終わり、タンパク質がたくさん入ったレプトリンという、元の現代、勝がこちらの世界に来た時から50年以上の月日が流れた世界でいうプロテインのような大豆のようなものからとったたんぱく質の塊の筋肉増強剤を飲みながら、見慣れない異質なのだが、少なくとも害はなさそうである魚や肉、パンを食べて、自由時間を利用して、広場にマーラとヤックル達といる。
彼らがここを利用している目的はただ一つ、ヤックルの必殺技になるであろう、火炎系呪文最上位に位置する煉獄を習得する為だ。
ヤックルはマルクスに喧嘩を売ってから毎日毎晩遅くまで、ゴルザの指導の元、特訓をしている。
「……!!」
ヤックルの手をかざした上空には、火弾20個分の塊が火柱を上げながら浮かんでいる。
「よし、これをあの缶にぶつけろ!」
ゴルザが指差す、アルミだかよくわからない金属でできた薄い板で、青色の飲料が入っていた缶が椅子の上に立てかけられており、ヤックルは缶に向けて炎の塊を投げつけ、その缶と椅子は跡形もなく焼け落ちていった。
「はぁあ……」
ヤックルは全ての魔力を使い果たしたのか、極度の疲労でヘタリと石畳の床に崩れ落ちる。
「あんた、やればできるじゃない! ちょっと見直したかも!」
マーラはJカップ級の胸をプルンプルンと震わせて、ヤックルを抱きしめて胸が締め付けており、ヤックルの愚息にいつもは貧血気味で血の巡りが悪く冷え性気味の身体から流れている血流が注がれてムクムクと大きくなる。
「きゃあっ」
愚息が胸に当たり、マーラは思わずヤックルの愚息を革製のサイドゴアブーツで思い切り蹴り上げる。
「痛ってぇぇー!」
男性にしか分からない、地獄の苦しみの様子を見て、勝達はどっと笑った。
「ゴルザさん、有難うございます!これなら明日の決闘は勝てそうかなと……」
ヤックルは愚息を押さえながら、明日の決闘が有利に働くという期待を持っているのである。
「いや、ヤックルよ、まだ油断は出来ないぞ、マルクスという男はつい半年前までは愚連隊を仕切っていた腕っ節の強い奴だ。勝つのには手段を選ばない卑劣な男だ。この煉獄はお前の魔力ではまだ1発しか使えないが、はじめてにしては上出来の部類だ。明日に備えて寝ておけ」
ゴルザはオモコを吸いながら、戦時にも関わらず繁華街の薪の明かり眩しい夜の街へと消えていった。
「愚連隊、かぁ……」
ヤックルは、学生時代にマルクスが不良と連んでいた事を思い出して、報復されるのではないかと恐怖を抱く。
「なあに、貴様の煉獄を見せれば、誰も虐めようとかって思わない筈だ!」
勝は臆病風に吹かれているヤックルの肩をばんと叩き、ははは、と笑う。
「すげぇなこりゃあ……」
アランは、丸焦げになった空き缶を見て、地べたにへたり込んでいるヤックルの肩をバンと叩く。
「やるじゃねぇか、このクソ眼鏡がよぉ! そこら辺の不良なんかには負けなさそうだなこりゃあ!」
「う、うん……でもさ、なぜあの人は煉獄を使えるんだ? それも何発も……」
ヤックルは、屋台の飲み屋で一杯を引っ掛けているゴルザを分厚い眼鏡の奥底にある瞳で見ながら疑問にかられる。
(一見飄々としているがあの男、相当やるな、細身のモヤシのような身体をしていて……)
勝は、長年軍隊で屈強な男に揉まれてきた為か、ゴルザが只者ではないということに気がついており溜息をつく。
「あぁ、あんた魔法使えなかったわね、速攻で死ぬわよ多分……」
マーラは、体の構造が違う異世界の人間である為か、魔力が全くないと聞かされている勝を不憫に思いながらオモコに火を付ける。
「なぁ、あの人何処かで見たことないか?」
ヤックルは顔を傾げながら、矯正視力0.7程であり、幾ら燈の光があるとはいえ夜の闇に紛れ輪郭がぼやけて映るゴルザを不思議そうに見ている。
「さぁ……おいヤベェ、門限があと少ししたらなるぞ! 便所掃除したくねーから早めに帰るぞ!」
アランにそう言われて、彼らは慌てて宿舎へと小走りで向かった。
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