第3話 魔法
どのような世界にも、全知全能であり、全ての万物を作り上げたという存在がある。
まだこの世界が出来上がる前、この世界に降り立った神は世界を4つの国に分け、人間を作り出し、自分の体を4つのエレメント――風、炎、水、雷に分けて自然界に同調していった。
4つの国は、ムバル、デルス、ゴラン、ハオウ。
この国は、競合しあいながらも発展を続けていき、ドラゴンが多くいたムバル国では竜騎士、魔法に長けた血筋が多いデルス国では魔導師、機械の扱いに長けたゴラン国では機械工、そして、ハオウ国では総合面で優れ、強力な力を持つものがおり、お互いが戦争をしないという協定を結び、500年もの間平和な国交が保たれていた。
だが、10年近く前、何故か、ハオウ国が協定を破り、デルス国とゴラン国を手中に収めていき、残すはムバル国だけになった。
ムバル国の力では、到底他の国には太刀打ちができずに無条件降伏は明白なのだが、そんな矢先に預言の男――勝が現れた。
🐉🐉🐉🐉
「そんな事が……」
勝はエレガーの話を聞き終えた後、ポケットに入っていた、残り少なくなった配給品のタバコに火をつけて溜息をつく。
「君のいる日本という国では、どんな創生論があったんだい?」
エレガーは、薄い白色の陶器のマグカップに注がれた灰色の液体を口に運びながら、興味深そうに勝を見やる。
勝の目の前にもその液体はコップに注がれて置かれているのだが、こんな液体は飲んだことがなく、腹を壊すのではないかという恐怖に襲われて、喉が渇いているのにも関わらず一口も口をつけていない。
「創生論? それは一体なんだい?」
勝は創生論という聞いたことが無い言葉を、頭の中の辞書を開いているのだが、全く載っておらず、混乱しているのである。
「貴方って何も知らないのねぇ、この世界が作られた話よ」
ジャギーは、この世の理を全く知らない、無垢な子供といっても差支えがない勝を小馬鹿にした様に言い放つ。
戦前の日本の教育は現代とは天と地の開きがあり、創生論という難しい言葉を使う機会が勝にはなく、自分よりも数歳年下の小娘の一言にむかっときながらも、勝は口を開く。
「それは……イザナミとイザナギが出会い、神々をつくり、大地を作り上げて……」
「ふむ、やはり君は異世界から来たのだな、そのイザナミとかイザナギという人物は全く聞いた事がない、少なくともこの国では。この世界では先ほど話した事が共通の創生論だ。となると……やはり君は異世界から来たんだな」
エレガーは、勝が予言の男だと益々確信を深めている。
「は、はぁ……」
勝は頼りなくエレガーに返事をして、タバコを肺に入れて溜息をつく。
「本当に知らないんだな? いやなんか、何度も聞くようで悪いんだが……」
「いや、俺が知っているのはイザナギとイザナミの古事記に書いてある話だけだ。精霊などという言葉は聞いたことは無い」
「さよか……」
エレガーは、勝の世界の創生論を聞いて、改めて勝が異世界から来た住民だ、この戦争に役に立つ人物なのかと思い、軽くため息をつく。
「話を切り替えよう、まず君にはどうしても受けて欲しいテストがある」
「は、はあ……」
勝は、また何か一体得体の知れない現象が出てくるのかと恐怖に襲われている。
「では、これから簡単な魔法のテストを行います……」
エレガーは指をパチンと鳴らすと、テーブルの前に銀色の水晶玉が出てくる。
「うおっ!? これは……どんな手品なんだ!? 一体!?」
ジャギーは驚いている勝を見て失笑がこぼれ落ちる。
「これは、物体移動の魔法です。そして、この水晶玉は魔力があるかどうか調べることができます、これに手をかざすと、魔力の強さによって色が変わります、緑、青、赤といった具合にパラメーターがあるのです。まずは、ジャギー、やってみろ」
「はい」
ジャギーは水晶玉に、白魚のように透き通らんばかりの白い手を乗せると、水晶玉は青色に輝き始める。
「うおお!? こ、これはなんと不思議なものなんだ……!」
勝は驚いた表情で、青色に光る水晶玉を見つめており、ジャギーは余りにもの凝視ぶりに不審者のような嫌悪感を示し、慌てて手を離して、侮蔑の目で勝を睨みつける。
「ジャギー、まだ修行が足りないな、では私がやります」
エレガーは水晶玉に手を乗せると、水晶玉は赤色に輝き始める。
「うおお、凄いぞ、と言うことは、貴方は相当魔力とやらが強いのだな!」
「まぁ、一応魔法研究所の副所長なものでして……ですが、魔法使い部隊隊長のトトス隊長の方が私の数倍は魔力がありますよ。勝さん、今度はあなたがやる番です」
「あ、ああ……」
(俺に魔法とやらは使えるのだろうか? 何にせよ、楽しみだなぁ……)
勝は、魔法には違和感を感じているのだが、何もないところから火や物が出てくる不思議な力が自分に宿っていたら生活が便利になるし、戦争も有利に働くのではないか、早く使いたいと、意気揚々と水晶玉に手を乗せるのだが、全く色が変わらずに銀色のままである。
「な!?」
「ふうむ、貴方は本当に魔法が使えないのですね、この世界の住民は、皆程度の差はあるのですが魔法が使えます、使えないとなると、竜騎士部隊しか無いですね……」
エレガーは全く役に立たない人間がこの世界に来てしまったんだなと思い、深い溜息をつき、マグカップに口を運ぶ。
「その……竜騎士になる前に聞きたいのだが、私が乗ってきた零戦はどうなったのだ?」
勝は零戦が使えれば、この戦争に一石を投じることが出来るのではないかと淡い期待をしている。
「あれは、墜落した後にバラバラになりました、残骸は私達の方で回収をしました、墜落した場所に行ってみますか?」
「あ、ああ……連れて行ってくれ」
エレガーの発言に勝は、やはり壊れてしまっていたかと、深いため息をつく。
勝の酷い落胆ぶりを見て、エレガー達は零戦がこの戦争に有利に働く兵器ではないのかと確証するのだが、自分達にそれを修理できる知識やスキルがないのに憤りを感じる。
「分かりました」
エレガーは、ブツブツと何かを口走る。
「えぇ!? いやちょっとこれは遠いのか!? あの変なよくわからぬ魔法はやめてくれ!」
勝の絶叫が、部屋中にこだまし、ジャギーの笑い声が勝の耳に入り込み、勝の目の前の視界がぐにゃりと歪んだ。
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