第10話 記憶の在る場所

 こんなにうなされた。


 思い出していた。

 おそらく色々と思い出しているのだろう。子どもの頃や学生時代、職に就いた当時の事などがゴチャゴチャと見える。


 小学校のグラウンドでサッカーをしていたかと思うと、次は教室でテストを受けている。仕事中に同僚と話していると、すぐに眼の前が昔のテレビ番組に変わる。懐かしいプロ野球の試合だ。

「これは、プロ野球の試合だね! 」


 ほんとうに色々な記憶だ。それが時間をまったく無視して現われてくる。起きた順番なんて関係ないんだ。

 過ぎた出来事には、もう時間はないのだろう。全部一緒になって記憶の中に在るのだろう。そのなかに入り込んだようだ。


 まだ若い母が、ベッドに寝かされる私をじっと見ている。なにか言ってるようだが分からない。とうとう母は、分からないことを言うようになったのかもしれないな。

 小さな姉の後ろにくっつき歩いているようだ。背中が見える。姉の足が速く、追いつけなくて、とても悲しくなった。追いつこうと必死に泣いて歩いていると、今度は枕に顔を押し付けて泣いている。布団の中だ。隣りに小さな男の子が見える。もう眠っている。寝息も立てず眠っている。そこ子をチラッと見ては、すぐに枕に顔を押し付けて泣く。まったく涙は止まらない。この世にこんなに涙が在るはずはないと思った。体が縮んでいくように、ずっと悲しい。


 ずっと悲しいから、枕に顔を押し付けて、幼い私は人間の嗚咽をしているのだ。喉がかれて痛いのだ。


 次には、お墓の前に立っていた。

「みんな、ここに入るのよ」

「みんな、ここにいるの」

「ぼくももうすぐ入るの」

 記憶の在る場所がわかった。


 こんな夢にうなされた。



(つづく)


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うなされる十夜 しお部 @nishio240

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