第5話










どこかの国の、どこかの辺境。その町はずれに、一人の修道女が暮らしていた。


育ての親を亡くすとともに片足を失い、両目はほとんど見えておらず、いつでもまともに動かない体を引きずっては困っている人を助けて回った彼女。


相手の貴賤に関係なく、相手の善悪に関係なく、どんな些細なことであっても、そのほとんど見えない目に映った人々を助け続けることのみに一生を捧げていた彼女。


なぜそこまでするのかと誰かが問えば、自分はこんな生き方しか知らない、こんな生き方しか許されていないと悲しげに笑った彼女。



そんな彼女は、月に一度、教会の地下に降りて、そこに眠る亜麻色の髪の生首に語り続けるという。













「ねえシスター、あたしたちは、あたしは、一体どこで間違えちゃったんだろう?どうすれば…………」


カタ、と、不意に背後から物音が聞こえた。背後を振り返ると少しだけ開いた扉の隙間から真っ白い肌を持つ一人の小柄な少女が顔をのぞかせている。


「……ああ、。いったいこんなところまでどうしたんだい?」


彼女はうっすらと浮かんでいた涙を軽く目を細めることで誤魔化し、そのまま優し気な微笑を浮かべる。


「あのね、あのね、あたしね、今日は上手にご飯が作れたから早くシスターにも食べてもらいたくて来ちゃったの!」


どこまでも純粋に、どこまでも無邪気に、少しだけ照れくさそうにはにかみながら、上目遣いで伝える少女。彼女に、思慕の念をぶつける少女。その姿は在りし日の誰かたちによく似ていて。


「そうかいそうかい。それじゃあ、もすぐに上に戻るから、少しだけ先に行ってお皿を並べててくれるかい?」

「わかった!すぐきてね、絶対だよ!」


彼女の言うことを素直によく聞いて、すぐにパタパタ音を立てながら階段を上っていく少女。


その姿を見て、彼女の胸はズキリと痛んだ。


「……じゃあシスター、あたし、まだがんばるね。あたしには、あなたの真似をすることしかできないから……」


亜麻色の髪の生首を祭壇に戻し、慈しむように頬を撫でた彼女は、立ち上がるのも億劫な体を精一杯動かして階段を上っていく。足が片方しかない彼女が。目がほとんど見えていない彼女が。


実は味覚もほとんど残っていないなんてことは、彼女のために一生懸命夕食を作った少女には、まだ隠しているのだから。

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シスターになりたい!(仮) エテンジオール @jun61500002

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