第3話 可能性は無きにしも非ず

今現在、雨に降られている。


だからこうしている。


雨宿りとはよく言ったものだ。


濡鼠ぬれねずみいとわなければ、少しは現状も変わろうが。


悲しいかな、急ぐ用事を持ち合わせていない。

むなしいかな、目的を持ち合わせていない。

さもしいかな、汚れる事は慣れてはいるが。


たまには立ち止まれと。


前向きに考えるのは苦手に尽きる。


人の通りはなく、生き物の声すら雨音に掻き消されて届く事はなく。


だが。


嫌いではない。


何も出来ぬ不自由が、たまらなく新鮮である。


駆け抜けるような日々は、己を置いていく程に早い。


この様子では、待ち人を待たせる事になるやもしれぬな、と。


雨にろくな記憶は残っていない位には、思い出に乏しい人間であるが、人を待たせるのは礼を欠くとする。


掴み所が無いようでいながら、本質に寄り添う。



――人が人を、さばく。


おおやけの場でなく、非常事態の出来事であったとしても、


例え、それが人ではない存在であったとしてもだ。


この罪人は、裁かれるべきだ。


国がゆるすとも、周囲が許すとも。


時を経ていようとも、償いは。


しなければならない。


取るに足らない事だろうが、この男にとっては不文律である。


知ってか、知らぬか。


待ち人は、その機会を設けてくれた。


その者がどんな考えなのかは、判らない。


ただ、あがない等ととがめてすらくれないのだけは解る。


己の事は己でどうにかしろ、と。


厳しく。


だからこそ、引き受けた事でもある。


誰に言われたでもなく。


者。


自分の利益不利益は二の次、三の次。


知り合って年数は経つが、こうして顔を合わせるとしたら初めてになるだろう。


短い付き合いかもしれない。


互いに晒し切らないまま別れが訪れるかもしれない。


未来に想いを馳せる。


あれだけ切望した未来は、絶望ではなく。


だからと言って希望や願いでもなく。


誰かの願いが叶うころ、あの子たちが泣いている世で無くす為の旅。


誰もが普通しあわせに。日常わらえるせかいを。


ずっと真っ当で平坦な、道。


ふと


視線を上げた先。


そんな思案に更けていたら、雨は上がっていた。


雨は止んだのだ。


「……やれ。日時の指定すら無い以上。一刻でも早く着けば良いな。」


何せこれより、忙しなくなる。


鬼の居ぬ間に洗濯を済ませておこう、と。


「なに、いずれ待ち人にも相応ふさわしき者が現れる故に。私は、それ迄の代理に過ぎぬ。」


……………………………………………………………



「………だったのだが、な。」


――そうして何年経ったやら。


とりあえず、何かを食べに行く。


その後に、誰かが横に居る。


何時もの事だ。


「悪くはない。」


此処には少し長い滞在になるか。


月よ。暫し、昔語りに付き合うてくれぬだろうか。


私怨しえんはない。


傍らに紫煙しえんが揺らぐだけだ。


さて、何から話すかね。


―――時間は再び、遡る―――

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禱れや謡え花守よ 外伝 『さらば偽主の道』 水本由紀 @mizumoto

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