第6話 相互尋問

 俺は佐藤先生が回復した後、無理矢理生徒指導室に連れて来られた。由紀と清見は授業開始のチャイムが鳴ったので急いで教室に戻って行った。これは後で聞いた話だがお陰でこの時間の二年A組は自習となったらしい。


 「いくつか質問をするぞ。場合によっては警察沙汰や退学も視野に入れた上で話せ」


 勝手におっとりとした優しい先生かと思っていたが違ったようだ。


 「了解です。僕も少し佐藤先生と話たいことがありますので」


 もちろん妖術師の件だ。教師をメインターゲットにしていて尚且つ出会う度に間が良すぎる。


 「ほう…それは気になるが私から行かせてもらうぞ。単刀直入に言うが何故学校の屋上から飛び降りた?イジメか?自殺か?真面目に答えろ」


 「えぇっと…」


 もちろん術者の件に触れる事は出来ない。この問題はどう答えるのが正解なのだろうか。……考えろ、俺!


 「実は僕マ○オにハマってまして…」


  何言ってんだ俺ぇぇえええ!!前世の記憶から考えたらこれしか浮かばなかったッ!


 「………馬鹿なのか?」


 そうです馬鹿です。さすがにまずかった…


 「先生マ○オ知らないんですか?めちゃくちゃ面白いんですよ!」


 苦し紛れの言い訳でしかないが…ってこれでどうにかなる訳が…


 「マ○オはもちろん知ってる。私も大好きだ。…まぁいいだろう。」 


  いいんかい!


 「では質問を変えよう。何故逃げた?」


 「えぇーっと…」


 今度こそ…前世の記憶を思い出して…ッ!!


 「先生がク○パに見えました…」


  あ、終わった。


 「……は?」


 「ほら、wiiのマ○オのク○パって最初にスイッチ踏んだ後ク○パが巨大化して逃げるじゃないですか…」


  俺の前世はマ○オかもしれない。なんで前世の記憶あんまり覚えて無いのにマ○オだけこんな鮮明に覚えてるんだよ…


 「海陸…お前大丈夫か?なんかキメてたりしないか…?」


 「はい。一切」


 「まぁ奇跡的に無傷で助かったようだし…イジメでも無いみたいだな。良かった…本当に良かった…いいか?二度とこのようなことをするなよ」


 「もちろんです!」


 「私からは思うところはあるが…以上だ。お前から何か私に話したいことがあると言ってたよな。遠慮なく言ってくれ」


 「はい。それでは一つ聞かせていただきますが…二年D組 清見 一樹君についてです」


 少し賭けに出る。少しでも成果があれば万々歳。


 「ほう…なんだ?言ってみろ」


 「あのー…彼のことどう思っているとかありますか?実は最近清見君怒りっぽくて…」


 うん。我ながらなんとも下手な尋問だ。


 「それがお前の聞きたかったことか」


 「友達として心配なんです。頼れるのが先生しかいなくて…」


 情に訴える作戦決行。さぁ、どう返す?


 「なるほど。…もっと友達を作れと言いたいところだが…」


 「あははは…」


 「残念ながら何も知らないとしか言えないな。あとお前いつから清見と友達になったんだ?学校では常に1人だっただろ?」

 

 …っ!


 「や、やだなぁ。先生が知らないだけでいっぱい居ますよ〜」


 「そうか。ならいいんだが、力になれなくてすまないな」


 「いえいえ、そんな。友達なんで自分の力でなんとかしますよ」


 「そうか、力になれることがあれば出来る限りではあるが力を貸すぞ」


 「ありがとうございます。あ、後もう一つだけ」


 「なんだ?」


 「先生って嫌いな人とかを陥れたりするのってどう思いますか?」


 「その質問の意図が知りたいが…どうとも思わないな…私は嫌いな奴は嫌いのままだ。何もしない。それだけだ」


 「…なるほどです。こちらも聞きたいことが聞けました」


 「そうか、なら良かったな。じゃあ質問ももう無いようだし教室に戻るぞ。ずっと自習にする訳にはいかないからな」


 「そうですね。了解です」


 佐藤先生と二年A組の教室へと戻った。どうやら俺の席は廊下側の1番後ろの席らしい。一つだけ席が空いていたので分かった。


ーー収穫は、あった。賭けに出た価値はあったが…


 確証には程遠いな…


 

 自習が佐藤先生の担当する数学に変わって5時間目も終え、6時間目の日本史も終わった。


⭐︎☆⭐︎☆⭐︎


 放課後、先に由紀と二人で清見が帰ってくるのを校門前で待つ。


 「なぁ、由紀」


 「なに?」


 「俺の家ってどこだと思う?」


 「………え?」


 「いやー細かいことは向こうがしてくれるって言ってたけど俺どこ行けばいいのかわかんねぇや…もしかして俊哉の家知ってたりする?」


 「ごめんなさい…知らない」


 「そうか…まぁ仕方ないな!でも俺どこ泊まるんだ?リュックの中に初期設定のスマホとか…あと俊哉の財布と別に10万ぐらい万札で入ってたけどこれ使っていいの?転生特典だったりするかな?」


 「…そうね」


 「初日から野宿は嫌だな…」


 「 じゃあ…うち泊まる?俊哉はその……恩人だし、私親と離れて暮らしてるから…」



 

 「………マジで?」




 鋭い視線を感じて後ろを振り向けば羨ましげに俺を見ている待ち人清見がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界救ったし元の世界に戻ってラブコメを…!? だんぼーる @danbool

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ