ザハーク、名だけを聞けば、どうした登場人物なのかは分からないだろう。
彼は、蛇人と言う生物学的特徴を持っている。
ただ、それだけなのだが、知っていても見た目で驚く人もいる。
所が、ダージと呼ばれる竜とは相棒の間柄だ。
ザハークがダージに乗り、特別な言葉を伝えれば、相棒は愛らしく啼いて頷き空を駆けまわる。
こうして、自由な賞金稼ぎの旅に出ていた。
そんなザハークに、大切な出会いをもたらした旅も一つ増えた所だ。
天空都市の常昼の街へ赴いた。
様々な陰謀や策略で張り巡らされた蜘蛛の糸にかかったかのように、街とその地の人々は淀みにいると、ザハークは素直に不思議に思う。
踊り子のサリハもまた、そんな世界に陥っていた。
本作では、陰謀などがよく描かれている。
けれども、私はザハークと彼を慕う人々を最もよく描いた所に注視したい。
騒乱の最中、ザハークの前に、様々な肩書、身分を持つ者が現れた。
ザハークは、自由を愛するが、対処できるのだろうか。
バラバラのヒエラルキーがあるが、それをただ静観しているザハークではないだろう。
そのザハークの後ろ姿を見たせいか、大きく成長する者がおり、彼と無縁ではない所も見逃せない。
いつか、この人達と酒を酌み交わせたらいいのにと思った位だ。
中には、ダージの認める者もいる。
本作のキーワードを見てみよう。
光と闇の女神、巫女、踊り子、天空都市、これらが目に飛び込んだ。
個人的に好みのモチーフだ。
王族、貴族、竜騎士、奴隷、蛇人、圧力を持つ者と圧迫される者がいると感じてならない。
ただし、蛇人ザハークの心は、人と全く同じではないにしろ、自由を求めている。
それから、ザハークの台詞は、少々時代劇風だが、その場の風を斬っているように鮮烈に聞こえる。
特別な目を持っているからではない。
特別な気持ちがあるからだと思う。
本当を知る彼が、本当に近しい人と親しくなって行く過程は、拝読しながら、拍手をしたい気持ちになったり、照れ臭くて仕方がなかった。
また、竜を空で使ってのバトルもアクションが最高だ。
殴る蹴るではない、智将のいる将棋に似ている。
そして、筆致もまた個性的で明確な裏付けがいつもある。
これまでの作品も秀逸だと感じていたが、提示したテーマを余分なものもなく、足りないものもない作品へ、得意とする精緻な構成で魅せるのに成功している。
本作もその一つだが、一際、蛹から蝶へと羽化したものと言えよう。
ザハークとその大切な仲間が共に、これから、心も羽ばたいて行くのだろう。
是非とも、ザハークの訪れた天空都市を見に来て欲しい。
充実した世界があなたを待っている。
蛇の頭を持つ亜人の賞金稼ぎ・ザハークが、神秘の空中都市に蔓延る陰謀に巻き込まれていく、ファンタジー活劇です。
腐敗した王政、傀儡のような兵士たち、荒れ果てた下々の村——ダークな世界観の中で、竜に乗って空を駆ける爽快感が映える!
謎の秘宝『闇の炎』をめぐる黒い噂に、神話を引き継ぐ闇の巫女、そして何やらキナ臭い王室事情。
特等の賞金稼ぎは、この国に巣食う闇を打ち払うことができるのでしょうか?
人の持つ『意思の力』というのが、本作の大きなテーマであるように思います。
浮遊島という鎖された社会で、考えることを放棄した人々。
何にも縛られることなく己の生き様を貫くザハークの姿が、それとは対照的に描かれています。
飄々としたザハークが強くてカッコいいです。
彼と行動を共にする闇の踊り子・サリハも素直な可愛らしさがあり、異種間恋愛が好きな方には堪らないツーショットでしょう。
複雑に練られた伏線に事実が紐解かれ、国まるごと揺るがすクライマックスシーンへと繋がっていく展開に胸が熱くなりました。
そして、前向きな『意思』で溢れる素晴らしいラスト。
一匹狼(蛇だけど)だったザハークの、明るく賑やかな未来が想像できます。
とても清々しい読後感でした。毎日の連載を、楽しく追わせていただきました!