over extended.
「あなた。忘れてる。
「お。おうおう。すまん。ありがとう」
「なんでいつも、万札と電子キャッシュだけなの?」
「小銭をじゃらじゃらやるのは、格好よくないだろう」
「なにその変なプライド」
「おじさんの、せめてもの抵抗だよ」
「自分の年齢分からないんでしょ?」
「ああ。俺にはこの街にたどりつくまでの記憶がない。気付いたらこの街で掃除屋をしてたんだ。だから産まれてこのかた、俺はおじさんなのさ」
「その話。好きね?」
「大好きさ。格好いいからな」
「たぶん、けっこう若いと思うよ?」
「最初におじさんと呼んだのはお前だ」
「はいはい。おじさんおじさん」
「やめろ。おじさんは意外とへこむんだぞ」
「行ってきますのキスは?」
「はずかしいな」
「キスは?」
「これでいいか」
「よろしい。今日はこれでかんべんしてやる。次はちゃんと舌を絡ませるように」
「まったく。なんて女子高生だ」
「女子大生よ」
「うわあ。進化してる」
「あなたがおじさんになっていくのを、間近で見れて嬉しいわ。どうかしら。わたしは、あなたの好みの女になった?」
「何も変わってない」
「うぐ」
「会ったまんま。あの日、自販機で十円玉くれたときのままだ。何も変わらない」
「へこむわ」
「それがいいんだよ。俺と一緒にいても、芯のところの熱さが、変わらない。あの日のまま。そういうところが、俺は好きだね」
「格好いいから?」
「そう。格好いい」
「十円玉を自販機の下に落としてかわいく困ってたくせに」
「それを言うなよ」
「さ。行きましょう」
「おい。大学は」
「もう全部単位も取って、博士認定まで何もやることはないわ」
「ほう」
「格好いいでしょ」
「格好いいね」
「あなたがまた撃たれたら、いつでも止血してあげる。今度はストッキングで」
「撃たれる前提かよ」
「女子大生に介抱されたら格好わるいわよ。がんばって生き残りなさい」
「そうだな」
街の掃除屋が、ふたり。
硬貨、白刃、柄物靴下 春嵐 @aiot3110
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