怒り

白川津 中々

 頭痛の原因は間違いなく怒りであるがその源流から湧き出る怨嗟の感情がせき止められぬ以上問題は解決しない。

豚のような目をした人間に顎で使われながらも「はい分かりました」と答えねばならぬのは屈辱以外の何物でもないし、命じられた労を務めても「そうか」の一言で済まされる理不尽に終わる。堪え難い辛酸が身心に変調を来し忘我と怒哀に狂うもどうすることもできない無常観。せめて殺すことができればと思うが小心から抜け出せぬ自我に帰り震える。声もなく、落涙もなく、泣くのだ。


 戦慄く右手を覗くと爪痕から鮮血が滴る。自傷でしか散発できない矮小な心が何より憎い。声を出し一言、「殺す」と吐きつけてやれたらどれだけ楽か。くだらない倫理道徳と社会性により形成された退屈な人間性が俺を縛る。殺してやりたい。できるだけ酷く凄惨な終焉を与えたい。見た者すべてが不幸に陥るような死に様としたい。血と暴力により今まで受けた仇をすべて清算したい。


 だができない。

 殺す場面を考えると竦む。

 所詮俺はその程度だ。

 この先ずっと、何物にも成れないだろう。

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