第8話:呪唄

 私はあらゆる手段を使ってベゴニア王家に潜り込んだ。

 演奏も唄も本気でやったら、瞬く間に大評判となった。

 最初は場末の酒場から初めて、名を売って徐々にランクを上げて行った。

 その間に男女を問わず誘う者がいたが、自分を安売りする事はなかった。

 二カ月ほどで、王都一番と言われる高級料亭で演奏し唄う事になった。

 応援してくれる有力者を確保して、王宮に入る手段を模索した。


「どうだい、アンドレ、俺の言う事を聞かないか?

 俺の情夫になるのなら、国王陛下の前で唄わしてやるぜ。

 そうすればアンドレはこの国一番の楽士で唄い手の座を手に入れられるぜ」


「私を安く見ないでくれ、そんな事しなくても、私は自分の力で一番になれる。

 それより、貴男に本当にそれだけの力があるのかな?

 実際に国王の前で唄えるようにしてから口説いてくれ」


 多くの有力者の口説きを利用して、身体を許すことなく、やれる限りの手練手管を使い、王の前で唄えるようになった。

 時間をかけたお陰か、私の名声は王都で評判となっていて、王だけでなく王妃や王太子、他にも多くの王族が私の唄を聞くことになった。

 当たり前の話だが、王族と私の間には、強力な防御魔法が張ってある。

 普通なら大集団が儀式魔法を使っても破壊できない強力な防御魔法だ。


「唄わせていただきます」


 私は命を賭けて王族を皆殺しにする事にした。

 防御魔法は強力だが、それは物理攻撃と魔力攻撃に対してに限られる。

 私の命懸けの呪唄ならば、防御魔法を突き破れる可能性がある。

 普通の呪唄だと、魔力を発生させて効果をだすのだが、私が独自で編み出した呪唄は、メロディーと歌詞に強力な殺傷力がある。


 問題は、王族全員を殺すためには、この命を引き換えにしなければいけない事だ。

 いや、そもそも自分の耳を塞いでも、自分で唄ったメロディーと歌詞を聞くことになるから、絶対に自分にも呪いが返ってきてしまう。

 実際呪唄を完成させるために、何度も死にかけた。

 メロディーと歌詞を別に考えて、それも分割して考えたのにもかかわらず、何度も死にかけたのだ。


 眼の前で王族達が苦しんでいる。

 本来なら私を取り押さえる近衛騎士も、王族を避難させるべき侍従や侍女も、唄の聞こえる範囲にいた者は、全員真っ黒な血を吐いて倒れた。

 耳を塞ごうが鼓膜を破ろうが、私の全力の呪唄から逃れる事などできない。

 身体の奥から、骨から唄を聞かせて殺してやる。

 もう、全員殺せたはずだ、王族も重臣も近衛騎士も、ピクリとも動かない。


「ぐっほ!」


 復讐できたのだ、満足して死ねる。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公爵令息は悪女に誑かされた王太子に婚約破棄追放される。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ