15
途中、二人はカメとクラゲが会話をしているのに出くわした。
「いやあ、メルキオールにも困ったもんじゃなあ」
カメが言う。
知り合いの名前が出てきたマリアは思わず、耳を澄ませてしまう。
「まあ、しょうがない。我々もよく見守るしかあるまいのお」
クラゲをよく見ると、クラゲはクラゲではなくて、真っ白いドレスを幾重にも重ねて着てる小人のようなサイズの人だった。マリアは好奇心に負けて、声をかける。
「あの、こんにちは」
柔らかい声に、二人(?)は振り向き、それぞれ挨拶を返す。
「お嬢さん、こんなところでどうしたのかな?」
「おや、お嬢さん。稀人だな。匂いが違う」
カメの方が鼻をヒクヒクと動かして、反応する。
「ええ、そうなんです。賢者さまのお名前が聞こえたからつい、…」
今度は白い小人(?)の方がエスに反応する。
「おや、こやつは悪魔だぞ。これは面白い組み合わせじゃなあ」
そう言って、ひらひら笑った。
カメが言う。
「じゃあ、お嬢さんたちだろう。メルキオールに啖呵を切ったって言うのは」
マリアは元の世界で家庭教師に怒られる時にして見せたように、ことさら殊勝に頷いて見せる。
「そうなんです。その、わたくしたち、ちょっと意見の食い違いがあったの…」
「ほうほう」
からからとカメが笑い、カメの方がバルタザールで、クラゲの格好をした小人の方がジャスパーだと名乗る。
「我々はメルキオールと合わせて『三賢者』と呼ばれてたりしておるよ」
「…まあ! そうではないかと思っていたわ。わたくしは、マリア」
「おれは、エスだ」
マリアが目線を向けると、エスが低く自己紹介をした。
カメのバルタザールが器用に頭を下に下げて、二人に謝罪する。
「メルキオール、あいつはまだまだ青いのう。いや、歳かのう。頭に血が上ると周りが見えなくなるんじゃ。失礼なことを言ったこと、許してやっておくれ」
「気にしていない」
エスが短く返事をする。
マリアはこのまま殊勝な生徒の態度でいようかしら、と一瞬迷い、
「わたくしも、気にしていないわ。でも、許すか許さないかは後で決めるわ」
と、正直に答えた。
この答えに、今度はクラゲのジャスパーが笑う。
「ホッホッホ。口の達者なお嬢さんよの。もちろん、その通り。自由にするといい」
ジャスパーとバルタザールの寛容さを見て、「ほら、やっぱり間違っていたのはメルキオールさまの方じゃない」とマリアは心の中で舌を出した。
バルタザールがヒレを動かし、マリアの目を覗き込むと、そっと助言をした。
「稀人のお嬢さん。迷い彷徨う哀れな魂。メルキオールの言うことは正しい。確かに、悪魔は惑わすものだ」
マリアはじっと賢者の目を見つめ返し、きっぱりと言い返した。
「エスはそんなことしないわ」
カメは今度はエスに目を向ける。エスは淡々と語った。
「おれはマリアを傷つける気も、惑わす気もない。けど、おれがそうしない、と言ったところで、それを証明する手立てがない。ないものは証明しようがない」
カメの鼻から気泡がブクブクと漏れる。
「はっ。やる前からへこたれてどうする! わしよりざっと二千歳は若いくせに、青さがまったくないではないか!」
「じゃあ、どうしろって言うんだ?」
それに答えたのは、ジャスパーの方だった。
「お主たち、ここに『人魚の声』を取りに来たのだろう? 我々はまだしばらくここにいる予定だから、帰りにここにまた寄るがよい」
「それが何の証明になる?」
「そう急かすな。その時にお主らが、二人ともかける事なく『人魚の声』を持っていたら、我々は悪魔であるお主を認めよう」
ジャスパーはさらさらと笑う。
「まあ、我々に認められることに意味なんてまるでないがな」
賢者たちがそれもそうじゃと揃って笑うが、その横でマリアはやる気を出した。
「行きましょ、エス。絶対に手に入れてここに戻ってくるのよ!」
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