2
ひとまずマリアは丘を下り、人を探すことにした。
どうか人間が存在していますように、その人がわたくしを助けてくれますように、と祈りながら。
移動はたいへんだった。なにせ、貴重品を縫い付けたドレスが重い。
幸い、マリアの足でも移動できる距離、つまり丘の麓にはちいさな街があった。
街外れの果樹園と思しき場所を通りかかり、農夫が荷馬車にりんごを積んでいるのが見えた。
「あの、…ごめんなさい」
おそるおそるマリアが声をかける。
麦わら帽をかぶった農夫が、マリアをしげしげと見つめると、ぶっきらぼうに返事をした。
「なんだい、あんた。この辺じゃあちょっと見ないような上等な身なりをしてるなあ。どこから来たんだ」
「あの…、それがわたくしにも分からないの。ここはいったい、どこかしら?」
農夫がゲラゲラと笑う。
「どこだって? おかしなことを聞くなあ。サン・ジェルマンじゃないか! この辺りでも一等、大きな街だよ」
サン・ジェルマン。
「まあ、まるでフランス語のようだわ」
マリアは頬に手を当てる。
もっとちゃんと勉強しておくんだった!
「フランス語? なんだいそりゃあ。どこの言葉だい?」
フランス語を喋れなくても、フランスを知らない人間はそうはいない。
やっぱりここはわたくし違う世界に来ちゃったんだわ、とマリアは納得した。
「あ、あの、わたくし、元いた場所に戻りたいのだけど…」
マリアの言葉に農夫は怪訝な顔をする。
「あんた、なんだ。これか?」
指で頭を突いた。
「ちがうわ!」
たぶん。
マリアは自分でもなにがなんだか分からなくなっていた。いろんな事が怪しかった。
「まあ、あれだ。困ってんなら街の賢者さまのとこでもに行くがいいさ。きっと助けてくれる」
後から分かることだけど、これは非常に有用な意見だった。
農夫の言葉に、マリアは主教さまのようなものかしら、と納得する。
「わかりました。ご忠告に従うわ。ありがとう、そしてごきげんよう」
そうして感謝をこめて、お辞儀をしてみせたのだった。
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