悪魔のレクイエム

目 のらりん

1

 その人は願ったのだ。

 自分の夢を犠牲にしてでも、願いを叶えてほしいと—————————。


 ピントの外れた意識がゆるやかに覚醒していく。

 彼女は霧の中に立ち尽くしていた。


「あれ…? ここは、どこ…?」


 彼女の意識の目覚めに合わせるように、霧がうすれていった。

 やがて、空はどこまでも見渡せそうなくらい、澄み切っていく。温暖な気候だと分かる空だ。少女がいるのは、丘陵のなだらかな丘の上だった。


 立ち尽くす一人の少女。ハーフアップされた明るい茶色の髪と大きな青い瞳。歳は十九。名前はマリア。

 彼女は、家族とはぐれた迷子の王女だった。


「わたくし…」


 曖昧な意識を呼び覚まそうと首を振る。ふと、視界のすみをなにかが横切った。


「なに、あれ…」


 それは、空を飛んでいた。

 悠々と空を泳ぎまわる生物。鳥ではない。姿形はどちらかというと、トカゲに似ていた。ただし、翼が生えている。それは、マリアが書物で知る空想上の生き物によく似ていた。


「ドラゴン…?」


 その生き物は身をくねらせ、どこまでも自由に空を泳ぎ回っていた。

 結構距離は離れているが、マリアにはその体のツルツルとした緑色のウロコや、翼の力強さが感じ取れるような気がした。

 マリアはドラゴンがやがて点となって見えなくなるまで、いつまでも空を見上げていた。


「わたくし…、どこに来ちゃったのかしら?」


 呆然と彼女がつぶやく。

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