後編
『出てきてやったぞ。貴様は森を何だと思っているのだ』
『ああ? 守護者面か?』
『知性は変わらないようだな。なるほど、完全とはいえ万能ではないらしい』
光線で焼ける前に斬られたようで、森がそこだけすっかり丸裸になっていた。
我はゴロゴロとその辺りに転がる拳大の石を脚部分から取り込んで物質変換し、
ヤツはそれを時々かする程度にかわしながら、眼下の我へ向けて光線を放ってくる。
一発一発は強力なものの、放たれるペースや向きが実に単調で、我のそれと同じ様に決定打を与える事が出来ない。
22号は
依然として避けるのはそう難しい事ではないが、
『ぐう……』
『どうしたどうした! 効いているようだが?』
まとめて撃ってくる様になり、完全に避けきれず弾がかするだけでも、細胞が100単位で消滅していった。
それもあるが、雨が少なかったせいか火勢が思いのほか強く、このままでは光が蒸し焼きになりかねないため、我は危険をおかしてでも早く決着を付ける事にした。
『どこへ行く気だ!』
我は大きく跳び上がって、近くの岩山の頂上へ着地すると、その脇にあった山肌に突き出た大岩を引っこ抜いて上空に全力で投げ上げた。
『ヒト型では力の制御が出来ないようだな!』
「抜かしておけ」
我はあえてヤツに伝わらない様に言い、山頂からヤツめがけて跳んで近接戦闘を仕掛ける。
眼球めがけて突きを繰り出すが、その分後ろに退き、逆襲に光線を放ってくる。
『ガ――ッ』
『なんだ? 万策尽きたか? ん?』
出力は確かに上がっているようで、直撃を喰らって弾が胴体部分を貫通した。
ふむ、頃合いか。
貫通を肩部分と右脚部分にそれぞれ1発喰らいながらも、我は後ろに全力で退いた。
『逃がす――ギャアアアア!』
その直後に、我が遥か上空に投げ上げた巨岩が、赤熱しながら落下し、
しかし、最後っ
「ぬうっ」
バランスの都合上、眼球を集めていたため、視界がほとんどなくなってしまった。
うーむ。多少はマズいかもしれぬな。
かなりの量の細胞が消滅したこともあり、回復が遅々として進まない。
究極生命体とはいえ捕食による生命維持機能は残っているため、都合良く動物でも通りかかれば問題ないが、
そもそも、炎に巻かれては生物である以上、現状では詰みに近いのだが。
我のことはまあ良いとして、問題は光だ。そろそろ避難を始めたところだろうか。
「ヤマノケさんッ!」
そう思考したところで、多少息切れした光の声が聞こえた。
「なっ。貴殿何故こちらに来た!」
「だって、命の恩人を放っておけるわけないじゃない!」
「あのなあ、万が一我がヤツに敗れていたら、元も子もないのだぞ」
「勝つ自信はあったんでしょ? それに、それだとどっちにしろ私食われるし」
「ぬ。我としたことが……」
言われてみれば、我が捕食されればさらに手が付けられなくなり、光を見つけ出す事も容易になるだろう。
――連中を散々馬鹿にしたが、我も大概な馬鹿であったようだ。
「すまぬ」
「それはいいから。肩とか貸したら歩ける?」
「いや。そもそも、少しも動くことすら出来ぬのだ」
「じゃあ、私を食べたら――」
「馬鹿な事を言うな。それでは何のために、我がこうなったか分からぬではないか。さっさと我を置いて逃げろ」
膝をついて、我の上半身部分をだき上げる光は、相当空気が熱いらしく、すでに汗だくとなっていた。
「そんなの嫌だよ!」
「ええい、聞き分けのない……」
「無くて結構! 私はそんな薄情じゃないから」
『ふは……。ふはは! 我がこの程度で死ぬと思ったか!』
その押し問答に割り込むように、地面にめり込んだ岩の下から22号の声がし、大分損傷しているが動けるヤツがズルズルと這ってきた。
「まだ生きてたの!?」
光は怯えた様子で声を上ずらせてそう言うと、我の腕をもち引きずって逃げようと試みる。
「おっもい……ッ」
「無茶をするな、貴殿の細腕では無理だ」
我はおおよそこの国の成人男性以上の重量があり、その主な質量である眼球が減っているとはいえ、相当の重さはまだあるはずだ。
『どうやら行動不能のようだな。ならば、貴様もろとも人間を食ってやろう!』
その間に、22号は光のすぐ足元までやって来ており、体細胞を前方に集めて口器を形成し始めていた。
『は。調子に乗るな三下が』
『ぐはは。言っていろ』
「光よ。貴殿には、少しも動けぬと言ったな?」
「だからこうやって――」
「アレは嘘だ」
我は脚と顔部分を再生して、あの培養装置の中で見た、声の主の表情を一部
『なにぃっ』
『我は『究極生命体1号』である。たかが眼球をやられた程度、大した事はない』
『ちくしょうめええええ!』
光に10秒ほど耳と目を塞ぐよう光へ言い、跳ね上がった我はボロ切れのようになった、メイド服のスカートの様に身体を広げ、無防備に断末魔をあげる22号を捕食した。
「やれやれ。貴殿のお人好しぶりは相当だな」
「それ
「いや。褒めているのだ」
――なるほど、人間というのは面白い。この面白さの事を
完全に元の水準まで細胞数が回復した我は、目を開けて耳を塞ぐのを止めた光を横抱きにし、燃えさかる森を
人の領域の境界に下った我は、光を降ろしてから、またその辺の植物を材料にメイド服を再生した。
「ヤマノケさんは、これからどうするの?」
「うむ。元の場所に、というわけにも行かぬだろうな」
いくら究極生命体といえど、我は焼け跡にわざわざ住まう程の好き者でもない。
「じゃあさ、その、私の勝手なんだけど、……私の家に住まない?」
「ほう?」
「あっ、ほらっ、ヤマノケさんも人間を観察できて楽しいし、私も寂しくなくていいから……」
我のことに関しては完全にとってつけた感があり、寂しいのが嫌だ、というのが本音だろう。
ふふ、
「うむ、そうだな。人間の命の輝きは興味深いからな」
それには気か付かなかったフリをし、我はそう言って光の提案を受け入れた。
「では行こう」
「うん。……手
「うむ」
我は光と共に手を
輝く命の怪物と少女 赤魂緋鯉 @Red_Soul031
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