中編

『貴様ァ!』


 半球状になり、複数の眼球を前面に集める22号は激昂げっこうし、生物発光とレンズによる光の屈折を応用した光線を放ってきた。


『遅い』


 だが、眼球の向きは固定であるため、特に労せず横に跳んで回避した。


 しかしヒト型というものは、なかなかに使い勝手が良いものであるな。


 わざわざ身体全体を動かさずとも、2本の足のみで移動が可能であるため、従来よりもはるかに素早く、容易に複雑な挙動も実現できる。


『えいこの! ちょこまかと逃げ回りよって!』

『不満か。ならば真っ向から行かせて貰おう』


 多少かすった光線の出力から推測するに、さしたる脅威ではない、と判断した我は、素早く22号との間合いを詰める。


 服は多少燃えたものの、案の定、直撃1発辺り数個の体細胞しか破壊されず、我は腕から体細胞を鋼鉄に変換した刀を生やし22号の眼球を1つ斬った。


『ぐあああっ!』


 後ろへ全力で回避挙動を取りつつ反撃してきたが、構わず踏み込んでの突きでもう一つ潰した。


 初の戦闘行為ではあったが、正直22号は我の相手にすらならず、あっという間に瀕死ひんし状態に追い込んだ。


『ぐう……』

いやしくも『完全生命体』であるならば、合理的な行動をすべきであるだろう。この恥さらしが』


 ふと、我々は共食いを行えば、さらなる能力の向上を見込める、という研究資料の記述を思い出した我は、


『しようの無い貴様を、我が喰らってやろうではないか』


 物質変換能力を強化し、暇を潰せる手段を増やすため、22号の捕食する準備へと移った。


 だが、その前に光の悲鳴が聞こえて来て、


「ちっ」


 我は口器の形成を止めるとその場で跳び上がった。


 北の方向に伸びる獣道で、光が緑色の網に絡め取られて藻掻もがいているのが見えた。


 放っておいても、我には関係の無いことではあったが、合理性をかなぐり捨てて彼女の方へと再度跳び上がって向かう。


 ギリギリと締め上げられ、苦痛に表情をゆがめる光の足元が着地点だったが、ちょうどそこに体色が深緑色の『19号』がやって来た。


『ニンゲ――』

「その汚い体で触れるな」

『グワーッ!?』


 我は容赦なく両足でそれを踏みつけた。


「全く。こやつらは阿呆あほうしかいないのか」

「ヤマノケ、さん……」


 うごめく19号を何度か適当に踏んづけた後、適当にその辺へ放り投げてから、そいつの生成した光に絡みつく糸を物質変換で粉にして開放した。


「ヤマノケさぁん……」


 手を掴んで起き上がらせると、光は我にしがみついてきて泣き始めた。


「なんだ貴殿。死にたくないのではないか」


 それは特に腰が抜けるほど驚いた、生に強く執着のある人間の挙動だった。


「……多分、私……。誰かに、話を、聞いて、欲しかったんだと、思う……」

「そうか。ならば真っぐ立ち去るがよい。我が人間の領域まで付いていってやろう」

「うん……」


 このような場合、どうするべきか分からずにいたが、しばらくすると光は腕を放して立ち上がった。


 その際、光が空を見て何かに気が付いた反応を見せた。


 これは22号の気配だな。しぶといやつめ。


「あっ、ヤマノケさんあれ!」

「分かっている。やれやれ、大人しくしていれば良いものを」


 うんざりしながら振り返ると、光の視線の方向に、猛禽もうきん類の形を模した22号がこちらに向かってきていた。


『大人しく野ねずみでも捕食していたらどうだ貴様』

『は。その減らず口もこれまでにしてやろう』

『その火打ち石でなにをするつもりだ?』


 真っ直ぐ向かってくるヤツへ、撃ち落としてやろう、と我がその辺の石を投げやりに変換して構えていると、


『なにも出来ぬだろうな。――これまではなぁ!』

『ヌワーッ!』


 22号は急転回し、瀕死ひんしの19号の方へと突っ込んでいって、膜状に広がってそれを捕食した。


『ふははは! 力がみなぎってくるぞ! やはり7体目となると違うな!』

『……』


 非常に調子付いていて腹が立った我は、なにも言わずにやりを投げつけた。


『その程度効くかぁ!』


 それを馬鹿でかい声で叫びながら、22号は光線で溶かしてしまった。


『逃げるな貴様ァ!』


 なんにせよ、元から光には危険なため、我はヤツの誇示には付き合わず、さっさと彼女を抱き上げて森の中へ逃げた。


「や、ヤマノケさん……」

「安心しろ。誓約通り貴殿は無事に送ってはやる」

「でも私が……」

「は。気にするな。あのバケモノだけが悪いのだ」


 自分のせいで、という言い草の光の言葉を一笑に付して、我は木の間を縫って、暇つぶし中に発見した人里の方へと向かう。


『ふはは! 逃がすと思うか!』


 22号の声が上空から飛んで来ると同時に、背後で木が横一列に燃え始めた。どうやら飛行しながら光線で火を放ち、我らを焼け出すつもりらしい。


「厄介な……」


 ひとまず、一旦人里へ向かうのはやめ、我が寝床に使っている、森林の中にポツンと口を開ける洞窟の方へ方向転換した。


 そこは風穴ふうけつになっていて、炎の熱を多少の内は防いでくれるだろう、と考えてのことだ。


「いいか? 静かになるまで動くでないぞ」


 我は記憶を元にした地図と方位磁針を生成し、光に渡しながらそう告げる。


「分かった……。けど、どうするの……?」

「知れたこと。我がヤツを仕留めるのだ」


 ではな、と言い、洞窟から出て適当に風穴の周りの木を斬り、我は何かしらわめく22号の声がする先へと駆ける。

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