第2章 1

 1.


 次第に季節は夏の盛りへと向かっているのに、時には肌寒ささえ感じる。

 この里へ向かう道中、汗ばむほどに感じた陽気も、太陽から里を阻むように立ち塞がる大きな山が半日近くもこの里への日の出を遅らせる。これほど目の前に聳え立つ采女取の山でさえもヤマセの白靄を防ぐことは出来ない。むしろ山を越えたヤマセは急な山肌を石ころが転がるように勢い付いて里に雪崩込み、田畑を家々を白く煙らせ、田畑を凍えさせた。

 だから、この里では米がとれないのだ。実りのものが実らないのだ。

 ただでさえ痩せた山間の土地。土は水を貯えず、里を流れる川は気まぐれに枯れることもあれば溢れて田畑を浸すことも間々あった。本来ならば数戸の糊口を凌ぐのがせいぜいのこの谷あいに数十戸が身を寄せている。子も生まれれば口も増える。

 だから村人は実りを求める。実らずとも実ると信じ、土を耕し、種を植える。

 実らなければ次こそは実ると信じ冬を耐える。もし誰か一人でもそれを疑い皆が疑うようになれば……


 どんな惨事が起こることになるか、皆がそれを知っていた。

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