第12話:「あたしたちのこと、バレてる?」
「彼氏のふり!?」
カレーを食べながら、おれが
「そういうことだってさ」
「はあ、なんじゃそりゃあ……。ていうかそれ、あたしに言っていいことなの?」
「うん、芽衣とか
「ふーん、どうして?」
「その、言い寄ってくる先輩とやらに分かってもらえばいいから、身近な友達まで
「へえ……」
本当はもう一つ理由があって、『芽衣ちゃんとの仲をアシストしようっていうのに、芽衣ちゃんに誤解させるのは
「でも、
「そうなのか?」
「うん。まあ、あたしもそういう話しないからお互い様か」
「芽衣の『そういう話』ってどんなのがあるんだ?」
「それは……、い、今、それはいいから!」
うーん、流れるように聞いたら教えてもらえると思ったけど、さすがに無理だった。
「で、どうすんの? 受けるの?」
「……まあ、ほとんど名前だけ貸せばいいようなもんらしいし、芽衣に……芽衣とか白山に嘘つかなくて良いってことなら、受けてもいいかなと思ってる」
と素直な今の心境を答えた。
「そうなんだ……?」
どんな反応をするんだろう、と思って顔色を伺ってみるけど、芽衣はほけーっとしているだけだ。
「それ、どういう表情?」
「いや、なんとなく意外だなあって……。勘太郎にメリットあるの? それ」
「おれって、メリットがないと人助けしなさそう?」
「ううん、そんなことないよ。勘太郎、優しいもん」
「お、おう……」
いきなり真っ向から褒められると照れるな……。
「でも、なんかそれって、普通の親切とちょっと種類が違くない?」
「まあ、それもそうだな……」
おれは頬をかく。本当はおれにとってもメリットのある交渉だったのだが、その『メリット』を芽衣にはまだ伝えるわけにはいかない。
なんと答えたもんかな、と考えていると、
「……ねえ、もしかして、あたしたちのこと、バレてる?」
「どういうこと?」
「あたしたちの同居がバレてるのかなって。その……あたしたちが一緒にコンビニ行った時とか、鍵作った時とかの写真を撮られてて、それをバラさない代わりに……とか
「いや、全然?」
思いもしないことを言われて、おれははっきり首を振った。
「そう……?」
「誓ってそんなことはない。もしそうだったら100億円やるよ」
「100億円って、小学生じゃないんだから……。でも、じゃあ、どうして? なんか良いものでももらえるの?」
「……まあ、そんな感じかな。内容は秘密だけど」
嘘をつくのはあまり得意ではないから、隠し事をするにとどめよう。
すると芽衣は、ジト目でこちらを見てきた。
「ふーん……。いやらしい」
「いや、そういうんじゃないからな? 芽衣って、そういう妄想たくましいよな」
「はあ!? べ、別に、そ、そんないやらしいこと考えてないし!」
「先にいやらしいって言ったのは芽衣だろうが……」
カウンターを打てた快感を感じながらカレーを食べ進める。
「ていうかさ、芽衣って赤崎と仲良いんだろ? なんでそんなに怪しんでるんだよ」
「あのね、七海ちゃんは良い子だけど、頭が良くって、かなりの
「そうなんだ……。すごいんだな、赤崎。まあたしかに、あざといところあるなあとは思うけど」
おれがもぐもぐとカレーを
「いや、
と芽衣がツッコミを入れてくる。
「たしかに……」
たしかに赤崎も
「それにしても、彼氏のふりかあ……。具体的にはどんなことするの?」
「さあ、知らない」
「そんな状態で受けちゃって大丈夫……? まあ、あんまり深追いしないように気をつけなね? ごちそうさまでした。美味しかったです」
いつの間にかカレーを食べ終えたらしい芽衣は、手を合わせてから食器重ねて、立ち上がる。
「お粗末様でした。ていうか芽衣、意外とこの話、すんなり受け入れるのな」
もっと呆れられたりとか、バカじゃないのと
「別に偽の恋人だってわざわざ知らされてたらヤキモチも
そうクールに言いながらキッチンに向かう芽衣。
「なあ、芽衣」
「なに?」
おれが呼びかけると、幼馴染はクールな表情で振り向きざまに首をかしげた。
「ヤキモチとかおれ、一回もいってないけど……?」
「うにゃ!? そうだっけ!?」
ところが一転して、顔に火がついたようになる。
「顔、真っ赤だけど」
「か、カレーの辛さがちょっとあとからきただけだから!」
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