いのせんとすかい【R40指定】
流々(るる)
鯖と豚
「続いては今年デビュー三十周年を迎える永遠の若手、『いのせんとすかい』のお二人です。どうぞ!」
「どうもぉ~いのせんとすかいです」『どうも! いのせんとすかいです』
『みなさん、俺がいのせんと、彼がすかい君です』
「こんにちは、すかいです――って、誰がすかい君じゃ! 僕は須賀!」
『すが? い、じゃなくて濁点だったの?』
「あったりまえでしょーが。あんな小さない、あるぅ~? あなただって伊野さんでしょ」
『そうだよ。だからちゃんと、伊野せぁんとって自己紹介したじゃない』
「なーんでそこで急に巻き舌になるかなぁ」
『まぁいーじゃないの。つかみはオッケー、ってことでさ』
『ところで彼のお父さん、このまえ総理大臣になりまして』
「はぁ? あちらは菅さん。字が違うでしょうが」
『え? 違うの?』
「あったりまえでしょーが。あんな偉い人、ウチにいるぅ~? あなただって僕の父親を知ってるでしょ」
『いや整形したのかと思って。なーんだ、この秋はワールドカップ芸人みたいに特需でバンバン仕事が増えるかと思っていたのに』
「んなわけないでしょ、まったく。でも秋といえば読書の秋、芸術の秋とか言いますよね」
『そうだね』
「伊野さんはどんな秋が好きですか」
『うーん、やっぱり一番身近なのは食欲の秋かな』
「秋は美味しい旬のものが多いですからね。どんなものが好きですか?」
『(かぶせ気味に)肉』
「は、肉? 旬の肉ってなんですか?」
『ボクぁ、いつだってぇ、胸を震わせてる。ボクぁ、この肉がぁ、大好きだ。まーきのっ』
「ってそれ小栗旬の肉でしょ。しかもおばたのお兄さんのパクリ! さらに後輩!」
『オマージュと言ってくれ』
「まぁたしかにお肉は美味しいですからね。でも僕は魚の方が好きかなぁ」
『なに!? 肉の方が美味しいだろうが』
「いやいや、魚だって美味しいですよ」
『よーし、それじゃそれぞれの良い所を挙げて勝負しよう』
「面白いですね。やってみましょうか。でも、肉、魚、といっても色々あるから絞り込みません?」
『(かぶせ気味に)豚』
「は? 伊野さんは豚で勝負するということですか」
『うん、豚』
「はいはい、分かりましたから。それじゃ僕は……
『いやいや。サバは魚じゃないだろ。サバダバサバダバ~♪ってさ』
「そんな五十代でやっと分かるようなネタやっても……」
『オマージュと言ってくれ』
「ほら、あそこのお客さん真顔で固まってますよ」
『大丈夫、怖くありませんよぉ~』
「お客さんとピンポイントで絡まないっ! とにかく、鯖は代表的な青魚ですからね」
『え? 缶詰のことじゃないの?』
「あったりまえでしょーが。あんな硬くて丸い魚、いるぅ~? 海の底の方に固まって沈んでたら怖いわ」
『底引き網で大量のサバ缶を、君もゲット!』
「さわやかに言ったって、誰もそんな海の底から拾ってきたものなんて食べませんから」
「それじゃまずはそれぞれの良いところを挙げてみましょうか」
『(かぶせ気味に)きれい好き』
「え?」
『豚はとってもきれい好きなんだってさ。食事の場所と、寝る場所、トイレの場所を自分で決めてきっちりと分けて使うらしいよ』
「はぁ……そうらしいですね」
『なんだよ、ここはもっと驚くところじゃないのぉ⁉ 伊野さんって物知りぃ、凄ーいとかさぁ』
「いや、食べ物の勝負をしているんだから食材としての良いところをアピールしないと」
『あ……』
「それに豚はきれい好きと言われてますが、元がイノシシなので屋外で放し飼いにすると体中に泥を塗りたくることは普通にやるそうですよ」
『そうなの?』
「体に汗腺がないので、体温調節のために汗の代わりに水分をまとうのが目的みたいですが」
『(棒読みで)へー』
「なんですか、そのつまらなそうな顔は」
『だって全然面白くないじゃん。漫才なのにさ』
「こういうウンチクを披露するのもありなんですよ、イマドキは」
『それじゃ、サバのうんちくは?』
「(少し早口で)スズキ目・サバ科のサバ属などに属する魚の総称で、日本だけでなく世界中で食べられています。いわゆる回遊魚で、産卵前の時期が脂ものって美味しいそうで戻りの鯖と呼ばれています。
日本のスーパーなどで販売されている鯖の約七割がノルウェー産。日本での漁獲量も少なくないのですが、小型のものが多く、主に伊野さんが好きなサバ缶などの加工品にまわされたりアフリカやアジア諸国に輸出されています。
鮮度が落ちやすく、寄生虫や食中毒の懸念もあるため生食は避けられてきましたが、最近は生食を売りにした養殖のブランドものも増えてきています。
そしてなんといっても近年注目されているのは、DHAやEPAといった不飽和脂肪酸を豊富に含むということですね。これらの不飽和脂肪酸は血液をサラサラにして大腸がんの発症を抑える効果があると言われています」
『(大きくうなずきながら目をつぶって拍手を送る)すばらしい』
「いやぁ、それほどでも」
『よくこれだけの長台詞、噛まずに言えたねぇ。(前列のお客さんに向かって声を潜めて)実はこのネタ、俺が書いてるんですよ』
「実は賢いアピールをするなーっ!」
『それじゃ、代表的な料理で勝負しようよ』
「いいですね」
『豚肉の料理といえば、まずは生姜焼きだな。ガッツリとご飯を食べるにはもってこいの男子は大好きおかずだ』
「それなら僕は鯖のみそ煮で。この料理の良いところは使う味噌によって味わいが変わることです。濃厚な赤みそもいいし、甘めの白みそもいい。このどちらにも鯖は合うんですよねぇ」
『うぬぬ。なかなかやるな。じゃあ今度は居酒屋の定番メニューになった豚キムチ炒めでどうだ。これも白いご飯に合うぞぉ。何杯でもいける』
「こちらは王道、鯖の塩焼きで。脂ののった腹側と、しっかりとした身が味わえる背側。パリッと焼けた皮も美味しいですよねぇ。大根おろしを添えてあれば言うことなし!」
『確かに旨いよな、サバの塩焼きは』
「でしょう? 他には〆サバもありますからね。お酢の利いたモノから、抑え目にして昆布〆にしても美味しいし。炙って焦げ目をつけても、押し寿司にしてもいい。
変わり種なら焼いたサバをパンにはさんで塩、レモンを掛けて食べる鯖サンドなんてのもあります。これはトルコの名物料理らしいですよ」
『でもさ、サバよりも豚の方が勝ちだ、って料理があるじゃない』
「そんな料理、ありましたっけ?」
『(かぶせ気味に)豚サバ』
「は?」
『(早口で)豚すぁぶぁ』
「ひょっとして豚しゃぶのつもりですか? 無理やり過ぎます」
『ダメ?』
「あったりまえでしょーが。そんな強引なの、あるぅ~? そもそも先に来ている言葉が勝ちなんて、それじゃかき氷は氷よりかきが勝ってるんですか!?」
『すんまそん』
「って、おさるのパクリ! しかも改名したのも忘れられてる! おまけに同期!」
『今は書道家になっててさぁ――』
「その話は要りませんから。他にはないんですか」
『ラーメン、つけ麺、ぼくブタメン!』
「ってそれブタの絵は描いてあるけど豚料理じゃないし。しかも英孝ちゃんのパクリ! さらに後輩!」
『オマージュと言ってくれ』
「これじゃ、鯖の圧勝ですね」
『しーんぱーい、ないからねー♪』
「ってそれまさかのKAN⁉ しかもメロディーは大西ライオンのパクリ!」
『いや、もともと劇団○季さんのパクリだから』
「(須賀くんが伊野さんへすがるように)そこはオマージュと言ってくれぇ~」
『でね、まぁ最初から分かっていたことなんだけどさ。結局はトンカツ最強ということで俺の勝ちなんだよ』
「どうしてですかぁ?」
『最後に
「ありがとうございましたぁ~」『あざーっすっ!』
いのせんとすかい【R40指定】 流々(るる) @ballgag
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