約束を。

頭の中で情報処理が出来なくなった。

その言葉がめまぐるしく回る、回る。Hが何を私に求めているのかが分からない、怖い。中学二年生にもなると、私の中で性知識は多少なりともあった。その行為も無論、知っていた。呼吸が止まりそうになる。困惑する私に彼は続ける。「Nは兄弟みたいなものだからさ?」と。それに加え、私は彼が童貞では無いことを知っていた。Hから直接相談を受けたこともある。グループ内の単なるお遊びだと思った、が。彼は本気だったのだ。Hは誘い文句や言葉が上手なので相手はすぐに見つかった。他校の、私の元友達、Tだった。彼女に頼めばいいのに…と内心少し思ってしまった。こういう行為はお互いが愛し合っている上で、営むものでは無いのか。HはTが好きなのか。不安と嫉妬に狂いそうになる。私の考えていることが分かったのだろうか、彼はこう言った。「Tとは縁を切ったよ」と。


「…は?」


もう訳が分からなかった。そんな私に追い討ちをかけるように彼は続ける。


「ゴム付けててもいいから。」

「まやにしか頼めない。」

「女っぽいし、まぁ恥ずいけど、可愛いし、俺はまやと一緒に居て安心する。」


「あと…今日はなんかいい匂いする。」


…?それは友達として言っているのだろうか。どう考えてもそうだろう。目線がぐらつく。きっとこれは、誘われている。私が欲しかった言葉を言ってくる。それを…知っている。好きな人にそんな事を言われたら、もう堪らない。彼は私のことが好きなのか?いや、今の時点で決してそれは無いだろう。

(実際、この時の彼は私のことを女友達としか見ていなかったらしい。)

彼は私の友達だ。だけど私は彼が好きだ。Tよりも、Nよりも、上に行きたい。一番になりたい。愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。


…私は考えた。流石に10分私が無言だったので、Hは何も言わずに待っていた。


「明日。」


「明日までに考えるから、私が明日学校でいいよって言ったらまた明日二人で遊ぼう。」




―――そう。次の日、私は彼にいいよと言ったのだ。





あの日の彼は積極的だった。無駄に話しかけてくるし、休み時間は毎回私の元へ駆けつけてきた。そんな彼が可愛かった。犬のように私の元へ向かってくる彼が可愛かった、愛おしかった。

そんな彼に「いいよ」と言ったのは二人のとき。中学生からすれば、男女の「いいよ」の意味は付き合うだと、そう、Nの耳に届くこと嫌だった。周りに騒がれるのが嫌だった。

当日は彼が持っていたゴムをつけてフェラをした。頭を撫でてくれた。初めての男の人の――はゴムの味しかしなかった。


それから二年に渡り、数百回の行為に及んだ。私は彼が大好きだ。高校生になって、少し落ち着いたら、「Hには、処女をあげるね」と約束をした。





「まや〜?」


ついつい長く語りすぎてしまった。

こうしてHと私はただの友達ではなくなったのだ。

今日は昼から彼の両親が家を空ける。

そう、今日が約束の日だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る