***

襖を開け、台所に行くと祖母の書置きが机の上にあった。

そこには、「ご飯だよ。元気出しな。」と書いてあった。

俺はおにぎりを口いっぱいに頬張った。祖母のやさしさに涙が出た。

食べ終わると、のどが渇いた。

「コンビニでもいくか。」

俺は昼間のコンビニに行くことにした。その途中、思いもよらない人物に出会った。

三軒隣の娘が走っていた。

「お前!ちょっと待て!こんな夜中に何している!?」

「何を、と言われましても見てのとおり走っています。先生が「走れ」とおっしゃった。」

「だからって…」

こんな夜中に、しかも二月だ。日中は気温も高かったが、やはり季節は冬。ダウンコートを着ている俺でさえ凍えてしまう寒さだ。それに、年頃の女の子が簡単に出歩いていい時間帯でもない。

補導されたらどうするんだ。

「先生?」

昼間逢ったときの白々し肌とはうって変わって頬は赤みを帯び、吐く息は目に見えるほど白く、街頭に照らされた女の子がとても美しく見えた。しばらく目が離せなくなっていた。

女の子が近づいてくる。ふわっといい香りがした。両手で裾をつかみ

「そんなに見つめられると…照れます」

―え?そんな顔するの?

能面の無表情な顔から頬が赤いのにさらに赤らめて視線を斜め下に落としていた。

惚れてまうやろ~~~!

えげつな!この破壊力!

こわッ!三軒隣の娘!こわッ!

「え~と。離れてくれるか。」

パッと袖から手を放し、ひとつ、コホンと咳払い。能面に戻る。

俺も顔が赤くなっているのだろう。妙に体が熱っぽい。

平静を装いながらも、内心、心臓の鼓動が激しく打ち鳴らしていた。

そんな俺を知ってか知らずに、娘は

「先生は…いつ稽古をつけてくださるのですか?」

自分の勘違いに感情が引いていくのがわかった。

ああ、なんだ。俺の勘違いか。こいつは

「俺はもう長い間、剣は握っていないんだ。」

「それでも先生がいいです。」

「なんでそこまで俺にこだわるんだ?」

「聞いてくれますか?」

「ここじゃあ風邪をひく。ウチくるか?」

娘はコクリと頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

草木ふかし @take156

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ