第2話

 「……そんだけ?」

「うん」

「……ちょろすぎ」

香里かおりが呆れたような口調で言う。

「まあ、みんなに分け隔てなく親切なのは認めるけど。……告ったら?」

「告……!無理無理無理無理!!!!」

「だと思った。ま、応援するよ」

「うん」

  

 夕食後、自室に戻った私は カバンの中から読みかけの本を取りだした。

(今夜中に読めるかな?)

そう思いながら読み始めた私は、急に放課後の事を思い出した。

(そういえばこの本、横山くんが手にしてくれてたんだ)

そう思った途端に急に鼓動が高まり、顔が熱くなるのを感じた。

(そしたらこれって、間接握手?うわ~うわ~!!それに『こういうの読むの?』って話しかけてもくれたし……めちゃくちゃ嬉しい!サイコー!!)

心の中でそう叫んで、机の下で足をばたつかせながら持っていた本をぎゅっと抱きしめた。

(明日もこの本、学校で読んでたらまた話せるかな?それとも違う本読んでたほうが、話しかけてくれるかな?)

そう考えだしたらとまらなくなって、持ってた本を机に置き、明日持っていく本を選ぶことにした。

(同じ作家の本と、同じジャンルの本と……どのジャンルだったら興味がひけるんだろう)

 

 結局絞り込めないままほぼ、徹夜状態で学校にむかった。

「おはよ!……どうした?目の下真っ黒」

学校に着くと香里が声をかけてきた。

「おはよ。ちょっと徹夜」

「また本読んでたの?」

「ううん。選んでたの……また話せるかなって。でもどれがいいかわからなくて」

「あ~!昨日読んでたやつね」

香里は約束を守って、主語があいまいになるようないいかたをしてくれた。

「直接聞いたら?」

「無理。なんて聞いたらいいかわかんないし、変に思われるかもしれないし」

「変になんて思うわけないでしょ」

「そうかなぁ」

「そうよ。ちょうど雑誌みたいなの見てるみたいだから、チャンスじゃない?」

「なんて聞くの?」

「なに読んでるの?他にはどんなの読むの?…みたいな」

「う……やってみる」

意を決して立ち上がろうとした途端、HR開始を知らせるチャイムが鳴った。

横山くんのほうを見ると、読んでいた雑誌を机にしまい込んでいる。

(あ~あ。せっかくチャンスだったのに。でも、いつかはきっと聞こう)

そう思って、私は自分の席に座りなおした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつか、きっと。 奈那美 @mike7691

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画