09 (final & prologue.)

 目覚めた。


 膝枕。


「あ、起きた?」


「なんで。生きてるの。わたしは」


 レベッカ。


「なんで。わたしは」


「よく考えたら、このゲームと同じにすればいいなって思って。死ぬなら、バグらせて無敵にしちゃえばいい」


「どう、いう、こと」


「だから、このゲームみたく、すぐ死ぬザコキャラのあなたを無敵にしたのよ。でもレベッカは宇宙海賊なので。宇宙海賊ってのはイケメンなので。バグは最低限にして回避しました。ゲームはこれにて完成です」


「わたしは」


「うん。無敵にした。少なくとも寿命は全うするね。風邪は引くけど病気にはかからない。神調整じゃね?」


「いやよっ」


「は?」


「いやっ。死なせてよっ。彼のいない世界で生きるなんて、わたしには耐えられないっ」


「うん。そう言うと思って彼も無敵にしたんだけど。ほれ。膝枕の相手」


 膝枕。


 見上げると。


 彼の、顔。


「いや、ほんと、俺、なんで生きてんのか分からないんだけど」


「うん。だってこのわたくし、宇宙海賊レベッカが直々に復活させたもの」


「宇宙海賊」


「やめろっ。そういう目で見るなっ。シューティングといったら宇宙海賊だろうが。大鑑巨砲主義だろうがっ」


 わけが、わからない。


 でも。


 膝枕。


 彼の温もり。


 たしかに、感じられる。


「これでとりあえずこの惑星は大丈夫だべ。じゃあレベッカは宇宙をまたにかけるイケメン宇宙海賊であり魔法少女なので、ここら辺で失礼しますね。次の惑星で会おう」


「いや待って」


「このゲームは9面まであります。つまり、ここがエンディングだから。がんばってクリアなさい。残弾数は少ないよ」


 レベッカ。


 ベランダから、消えた。


 残される。彼と、ふたり。膝のぬくもり。


「うう」


「うぐっいきなりのタックル」


 耐えられなくなって。彼の腰に抱きついた。


「ごめん。仕事の関係でさ。色々、迷惑をかけて。ごめん」


「夜中に部屋に来たのに。ゲームしか、しなかった。わたしにかまって、くれなかった」


「仲良くなったら、仕事で殉職したときに、まずいかなと思って」


「でも。今日。日付が変わったとき。ゲームしに来た」


「危険な仕事だったから、どうしても会いたくなって。ゲーム買って行けば許してくれるかなって。バグってたけど」


「メッセージ。ゲーム画面の」


「俺が死んだらこのゲーム機に送信するように、通信担当に言っておいたんだけど。文字化けしてたりしなかった?」


「ほとんど平仮名だった」


「そこもバグってんのかよ」


「好き、って、ところだけ。漢字だった」


「そっか」


「好き?」


「好きだ。離れたくないし、ずっといっしょにいたいと思う。でも仕事があるから、やっぱり、関係は」


「あ」


「どうした?」


「無敵って、言ってたよね」


「ああ。あのレベッカとかいうやつ。言ってたな、たしかに。現に死んだはずの俺はここにいるし」


「無敵。だから。もう。我慢しなくても、いいよ?」


「そっか。そうだな。ありがたい。無敵なら、仕事がかなり捗る」


「だめっ」


「うっタックル」


「だめ。転職して。急にあなたがいなくなるのは。耐えられない。無理」


「と言われてもなあ。街は護らないとさ、いけないし」


「だめ。許さない」


「じゃあ、おまえも、来るか。同じ職場に。転職してさ」


「え、わたしが転職するの」


「俺は、街を護る自分でいたいんだ。お前と同じぐらい、街が大事だからな」


「かっこつけてる。むかつく」


「ごめんなさい。かっこつけました。でも、本心です。街とおまえを天秤にかけられれば、俺は、同じように、かわりに自分の命を懸ける。そういう人間なんだ。すまん」


「だめ人間」


「ほんとだよ。深夜に女の家に転がり込んでゲームしてるんだから」


「わたしをかまえよ」


「ごめんって。わかった。かまう。かまうから」


「よし」


「でもさ」


「うん?」


「いや待って。俺たちさ、無敵なんだよな。無敵ってさ、どこまでが」


 ベランダで物音。


「ああじれったいなくそが。なんでレベッカ再登場しないといけないのよ。いつまで続けるんだよこれを。はやくくっつけよ。告白してキスしろよ」


「うわっ」


「レベッカ」


「そうですよレベッカですよ。はやく終われよ。いいですかおふたりさん。無敵化してるだけだから。クソゲーで強くてニューゲームだから。いいね。告白してキスして終わり。第9面でエンディング。最終面だけ弾数多くてやたら長いのは、作業ゲー感増すから微妙なの。サッと告白して、すぐにキスしなさい。じゃあね。あばよっ」


 レベッカ。ベランダから消える。


「好きです。無敵バグがなくなるまで、ずっと。いっしょにいてほしい。俺も隣にいられるように、なるべく、努力する」


「わたしも好きです。あなたと、ずっと、いっしょにいます」


 キス。


 お互いの無敵化した舌や歯を、うまく避けて。上側の口の奥の、気持ちいいところを。撃ち抜くゲーム。








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