秘密の庭で君と2人で。

山岡咲美

秘密の庭で君と2人で。

 城と言うものには元来秘密の通路が在るものだ、それは戦の時に重要人物の脱出や王が秘密の逢瀬おうせを重ねる為のものだったりする、わたしの場合どうだろう?いまだ逢瀬とは言えないものの密会とは呼べるものではないだろうか?



 私は今日も彼に会いに行く、私としては彼に来て欲しいが如何いかんせん彼は忙しい、彼が仕事を終えてからこの地下に在る秘密の通路を通り5分、その5分すら私には彼と話せる貴重な時間だった。



「でも狭いのよねここ、せめて馬車が通れる幅があれば……」



「ここはその様な場所では……」



「解っているわ、秘密の場所なんでしょ?」



 私はここの秘密を知るメイド(確かニンジャとか言う特殊部隊)の[サクヤ・コウカノ]と供に彼のもとへと向かっていた、この通路はその性質上、上下水道としてよく使われる質素な石造りを流用しておりサクヤ達の一族がその昔に秘密裏ひみつりに造り今も彼女らが管理しているものである、高さがあるのが救いだがとても狭く人が何とかすれ違える程度の幅しかなかった。



「でも石の組み方がしっかりしてるのよねここ」

 上下水道と言うには気持ち悪いくらいピッタリ石が組まれている。



「国民性です」

 どうやらこのメイドの一族は粘着系職人気質の国から来たらしい。



 そして私はこの秘密通路を使いメイドのランプで道行きを照らされる以上、高貴な生まれと言うのは間違い無い。



「姫、足元にお気をつけ下さい」



 いきなりばらすな……そうです私はある王国の姫[クララ・ノースロップ]これから秘密の相手と密会なのです。



「姫、王子は例のスピーチの事でお忙しゅうございます、お急ぎを」



 何故いきなりばらす!確かに私は隣国の王子[シュナ・サウスウエスト]と密会の予定ですが時が時、秘密は厳守なのです。



「姫、ンンッ?」



「貴女はもう話さないで!」



 私はサクヤの口を押さえた。



「姫っ!」



「何よ!」



「着きました」



 地下通路は分厚い鉄の扉へとぶつかり、そしてその扉が「ギギリ」と音をたて開いていった。



「お待ち申し上げておりました、クララ姫様」



 そこには我が王家のメイドと同じく異国人いこくびとの黒髪メイドが静かに頭を下げ待っていた。



「シュナは?」



 私は待ちきれずシュナを探す。



「申し訳ございません、シュナ様は未だ執務室でスピーチの文面を熟慮じゅくりょしております」



「……何時会えるの?」



「今だよ、クララ」



「シュナ ❤️」



 そこには私の愛しい人が立っていた、シュナは私よりとうも歳上だった事もあり、私の事を妹のように想っていたがそれは今までの話、私とて明日となれば成人、王位継承権が生まれるのだ。



「ねえシュナ?お仕事はもういいの?」



「ああ、準備は出来たよ……」



 両国のメイド(忍びメイド)達が王子の城でなかむつまじく茶会の準備を始める、会場となるのはクララの城と対面し国境を越え徒歩5分、王子シュナの城にある小さなシークレットガーデン、白く小さな丸テーブルと揃いの椅子が2脚、幾多の歴史の中で両国の秘密の外交が行われた場所だ。



「楽しみだねシュナ」



「……クララ、本当にコレで良いのかい?」



「……私この庭が好きよ、この庭はきっと私達の国が本当はお茶や会話を楽しめる平和の国である証拠ですもの」



「でも本当に君がこの計画を?」



 王子はサクヤを見つめそう言った。



「はい」



 サクヤは静かな笑みと共に答える。



「シュナ、知らないのですか?愛は人を盲目にするのです」



 私は思う、秘密の庭などいらない世界にしよう、彼もそう望んでいる筈だ……。



「クララ、紅茶がさめないうちに」



 シュナが最高の紅茶をすすめてくれる。



 そして私クララ・ノースロップは静かに紅茶を口へと運んだ。



***



 首都ノースロップ宮殿



「たいへんです、こくおうさまが、ちを、ちをはかれました~~」



「いしゃを、いしゃをよぶのです~~」



「なぜとつぜん~~?」



「さいしょうかっかのおくりもののぶらんでいをおこうちゃにたらしおのみになったらこんなことに~~~」



「これはあんさつです~~~」



「おのれメイドども何をしておる!この茶番は何だ!!」



 宮殿の寝所にはクララの実父、国王[グランロード・ノースロップ]が一振のつるぎ王剣おうけん[ノースロップ]を手に立ち尽くしていた。



「国王様、我ら忍びは貴方様を見限ったのです、貧しい国の王でありながら自らは至福を肥やし、経済大国サウスウエストに対し傲慢にも兵をあげ、反撃が無いのをシュナ王子が臆病者だと無知を振りかざしその平和への想いを下げすんだ挙げ句、国民の命と税を無意味に消費する、そんな貴方様には使えるに価しないと」



「ふっ!ふざけるな!!下女げじょの分際で!!!!」



「……全ては新たなあるじ勅命ちょくめいゆえに」



 怒り狂った国王がその手の王剣を部屋付きメイドに突き立てようと向かって行く。



「さあ早くお飲みください国王陛下」



「止めろワシは死にとうない!」



 本来ならば今、王宮の絨毯じゅうたんに這う国王を支え護る筈の忍びメイド達は国王の手より王剣をあっさり奪うと、のたうつその醜い巨体を幾人もかけ押さえ込み、こぞってその国王の口に毒と紅茶とブランデーを注ぎ込んでいた。



「今すぐ離れよ、ワシに毒を吐かせるのだ」



「こくおうさま、こくおうさましっかりなさってくださいませ、うるうる」



「医者を呼ぶのだ、今すぐ、ワシに毒が回っておる……」



「ああ、なんてことなの、いだいなるこくおうさまが~~」



 グフッ!!



「何故……だぁ……クラ…ラぁ…………」



 国王は大量の血を吐き真っ白な寝間着を真っ赤に染めて絶命した。



***



 サウスウエスト民主王国第1王子シュナ・サウスウエストのラジオ演説



「歴史をさかのぼれば僕達は多くの過ちを犯して来ました、幾百年と続いた争いは国民の心の奥底まで染み渡り決して消える事の無いような傷を遺したと思えます、しかし歴史を更に振り返れば両国国境の城には両国王族が他愛のない会話をする為の秘密の庭が存在し常に対話があったと聞き及んでおります、今こそ対話の時、どうか対話の席に」



 ノースロップ共産王国新国王クララ・ノースロップのラジオ演説



「よく聞くがいい我が神民よ、臆病者の王子は我らに恐れをなし対話をしたいと申す、奴は手土産に金や食料、医薬品まで貢ぐと言うのだ、われクララ・ノースロップはこの王の証、王剣ノースロップに誓った、真の平和を神民に与えると、全て弱き者共にその平和を供述させると……故に我クララ・ノースロップは弱き者、戦う事もできぬ臆病王子に平和とはいかに創るのかを教えてやらねばならない、心配は要らぬ、自らが王権を握ろうと兄王子共々先王の紅茶に毒の寝酒ブランデーを盛った宰相程の勇気も器量もあの臆病王子には無いのだ!」



***



 離れ小島ノースロップ監獄



「そして王族を殺し姫をめとろうとした犯人たる貴方、前宰相閣下も自殺し全ては闇の中に……」


 監獄には不釣り合いな黒髪のメイドが静かな笑みを浮かべ1人たたずんでいる。


「違う、政策は全て国王陛下のめいなのだ、わたしは!」


「国王を私腹を肥やしただけだと?」


「止めろ私とて国の為に……」


「ならば国の為に死んで下さいますよね、前宰相閣下」



「…………」



「…………」



 前宰相は牢獄の中、隠し持っていた王族殺しの毒薬で命を絶ったと言う。



***



 国境の城、クララのシークレットガーデン



「ここに居て良いのかい?」

 クララは首都に在る王宮ノースロップ宮殿には入らず国境の城にきょを構え続けた。


「ええ、暗殺が横行した宮殿なんぞ居られるか!と言ってやりました」

 その暗殺の首謀者は子供じみた笑みを見せた。


「まったく迷惑な話です、我ら忍びメイドは責任を取らされメイド長以下数十名が処刑」

 サクヤは少し緊張した様子で王子の後ろに立つ老年のメイドを見つめる。


「本当にノースロップは野蛮な国でしたね、嫌気がしました、清々ですよ」

 王子の後ろで処刑された筈の前メイド長が首を横に降り、その前メイド長と供に国を渡った王宮付きのメイド達は少しひきつった笑い顔を見せる。

 


「全ては君の愛する国民の為に?」



「ええ、全ては私の愛する王子様と、私と貴方の国民の為に」



 「愛は人を盲目にする」あの秘密の庭の茶会でクララは真っ直ぐそう言った、そしてその愛は僕と僕の国民にも向けられる、その愛が有る限り僕も僕の国民もこれから平和を供述出来るだろう。



「浮気などなさらぬように……」



 サクヤが僕にささき国を渡ったメイド達が僕に微笑んだ。



「何を話したのサクヤ?ソレは私の王子様よ」



 僕は想う、いつか2つの国は1つの国となるだろう、そしてその時は秘密の通路も秘密の庭も歴史の中に埋もれるのだ、なんせ僕の愛するお姫様の住む城は5分と離れていないのだから。



 きっとこの想いはすぐに届くだろう。



「シュナ、紅茶がさめないうちに」



 クララが最高の紅茶をすすめてくれる。



 そして僕シュナ・サウスウエストは静かに紅茶を口へと運んだ。

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