二年


 全てが終わった後、神の権能が切れた事で、その能力によって呼び出されていた偉人達は消滅し、それに伴って、アルベルト・アインシュタインが設置していたダンジョンの入り口も消失した。


 あのパスワードも使う事は不可能になり、事実上ダンジョンに入る事は不可能になった。



 ただ、予想外の事もいくつかある。まず第一に、異能力が消失しなかったこと。異能力が人類に覚醒したのは、ダンジョンの400階層突破で得た覚醒権限を神が保有していたまらだ。その中に、一度発現した異能を解除するような物は含まれていない。つまり、異能や世界に溢れた魔力はそのままとなった。



 それともう一つ……


「来ましたわよ、夜坂陰瑠」


「やあ、私も来たよ」


 そこに居たのは異世界の住人であるはずの、シェリビアとアーサーだった。


 賢者ノーマンは別としても、この二人は今の時間を生きている人物だ。だから当然消滅もしていない訳だが、一度この世界に来たからか異世界への転移術式を完成させていた。


 その発動には莫大な魔力が必要になるが、街中の魔法使いを集めれば発動可能らしい。


 そんな魔法を連発してるのもどうかと思うが、この二人は割と頻繁にこの世界へやってきている。


「まだ、お爺様の魔法の回鳳凰フェニクスが良く分からないのよ。もう一度見せて頂戴!」


 シェリビアの目的は俺から魔法を教わる事。彼女はまだまだ賢者ノーマンの魔法を80%程度しか使えない。っていうかそれ以上にノーマンの魔法を完全に使い熟せる奴は居ない。


 そう、俺以外にはな。


 だからしょっちゅう休暇を取ってこっちの世界へやってきている。


「若勝さん、おめでとうございます。兄さんをよろしくお願いしますね」


「十華ちゃん、来てくれてありがとうございます」


 ただ、今日だけは来客も異様に多い。この世界の人達も、この世界以外の人達も。


 若勝が妊娠したからだ。まだそれが分かっただけだが、皆それを祝いに来てくれる。


 あれから俺たちは正式に結婚した。


 ダンジョンは消えはしたが、コインは消えていないから働く必要は一切ない。


 今の俺の仕事と言えば、時折赤丸さんから掛かってくる異能がらみの事件の手伝いをしているくらいだろうか。



「おめでとうございます、陰瑠さん」


 来てくれた人の中には、俺が殺した相手も居た。



 阿鼻巣郎猿あびすろうえん、それは俺が殺し、支配下にした男だった。今は高校も卒業して普通のサラリーマンをしているらしい。あの後は、俺が相当脅したからかもう一度虐められるような事は無く、普通の高校生活を過ごしていたらしい。


 まあ、異能が消えたわけじゃないから何されるか怖いよな。


「悪かったな。あの時は」


「いいえ、あれは僕が招いた事です。今思えば感謝すらしています」


 何故か今のこいつは聖人と化している。まだ、命令権が俺にある事を気にしているのかもしれない。


 クラススキルの影響下である以上、俺の命令一つでこいつは好きに出来る事は変っていない。



 世界はこの二年で相当な変化を遂げた。異能社会、それによって異能を悪用した集団はまだ世界中に幾つも存在するし、この異能は子供にも引き継がれることが解っている。

 つまり、この先生まれる子供の全ても異能力を扱えるようになっているという事だ。


 しかし、天宮司花蓮を始めとしたヒーローも存在する。確かに人類も世界も相当な変化を遂げたが、しかし、それは考えられる最悪とは程遠い結果を齎していた。


 異能の覚醒が良かったことなのか良くなかったことなのか、それは俺にも分からない。けれど、人類は少しづつ前に進めていると思う。世界中に溢れるコインや、迷宮で手に入れたアイテム等、世界は異能の覚醒以上に大きな事態に直面したが、しかし、それを乗り越えるだけのパワーを持っていると感じている。



「陰瑠さん。パパになる気分はどうですか?」



 だがそんな事よりも、俺にとっては今のこの幸せな時間を護る事だけが生きる理由だ。


「まだ、実感が無くて良く分からないよ。けど、自信はあるよ。お前とその子を護れる自信は」


 若勝の救世主の能力はその殆どを失った。神の洗脳が解けた事と、異世界の街が本当は壊滅していなかったことが広まったからだ。だから、今全ての世界で一番強いのは間違いなく俺だ。


「陰瑠さん! コインに頼ってばかりいないで、きちんと仕事しましょうね!」


「はい!」


 まあ、救世主が失われていたとしても、若勝には一生敵わないのだが。

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人類は超能力に目覚めたようだが、俺は魔法を作る 水色の山葵/ズイ @mizuironowasabi

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