これで、終わりです
ゆらゆらと少女は立ち上がる。
涙を拭い。その表情には覚悟が宿っていた。
「儂等は君に力を与えたかった。じゃから、その次、これから君が真実を知ってどうするかは君自身が選びなさい。それを彼も望んでいる筈じゃから」
最低の気分だ。
誰かの掌の上で踊らされて、私だけが何も知らされず、ただ利用された。
それなのに、そこまでして置いて、貴方たちは何故私にそれを殺す理由をくれなかったのか。
「神とは、ダンジョンを創造した者の事ではない。神とは、ダンジョンを最も多く攻略している者が自称した姿だ」
そうか。結局、神様だって私を利用していたのか。
アルベルトさんも、ハリーさんも、信長さんも、異界の魔術師も、陰瑠も。
皆して、私を嵌めた。
許せない。許したくない。
そのはずなのに、陰瑠の事を思い出すだけで。私の為に死んだ貴方は何故それを選んだんですか?
その解答を私は知っていた。
嫌でも、分かってしまう。それ以外に私が幸せになる方法が無かったから。
神は私以外の誰にも倒せない。
神様の命令にずっと従っていても、きっと……
最初はあの時の私の涙から始まったんだ。
陰瑠は今度こそ助けると言ってくれた。
そして、私は助かった。
たったそれだけの話で。
私は、全てを丸く収められる英雄では無かったと、それだけの話。
なんでですか……、もっと上手く、誰も死なないようにしてくださいよ。
いいや、せめて貴方だけでも死なな道はあったはずです。
「何故、陰瑠が死なないといけないんですか? 他の誰かじゃダメなんですか?」
「彼自身が決めたんだ。死ぬのは自分だけでいいと」
「まこと、
「自分が死んだら意味ないでしょ」
「あるさ、お主が生きておるのだから。男が命を張る理由なぞ、それで十分」
何時の間にか現れた信長さんは私にそう言った。
意味が分からない。分かりたくない。
全部勝手に決めて、私には何も言ってくれなくて。
そりゃ私は嘘を吐くのが得意じゃないけど、それでも少しくらい教えてくれてもいいじゃないですか。
「よお、人間」
「やあ、人間たち」
「来ましたよ、人間」
三人の少年少女が現れる。
このタイミングで現れるとしたら、そんな存在は一つしかないだろう。
「来たか……」
空間から魔力が消失していく。
これは、アルベルトさんの力による物だろう。
要するに、挑発しておびき出して逃がさないように空気中の魔力を完全に封印する。
この空間内では体内魔力しか使用できない。つまり、異能力が完全に封印される。
勿論、完全に魔力が0になっている訳では無いから、多少はその能力を使えるだろうが、それは今の私には無力だ。
この神々は知らない全てアルベルトさんの掌の上だという事を。
アルベルトさんは神々が自分達を監視している事を察知し、魔力遮断結界を用いて幾度も他世界の人間と会議をしていたらしい。
アルベルトさんの空間と振動を操る能力によって、神々には盗聴器のような働きをする魔力が仕込まれている。
要するに神の情報はこちらに筒抜け、逆に神々は知ったつもりでアルベルトさんたちの動向を全く知らない。
この戦いは無意味な物だ。
彼等は知らない。
私に全人類すら超える、三世界の人間から魔力が送られてきていることなど。
他世界からの供給人数はその人口からか、もしくは完全に意識を統一できていないからか、数は二つ合わせて10億程度だが、彼等はこの世界の住人とは一人一人が保有する魔力量が段違いだ。
平均三千。
十億人が三千の魔力を供給しているという事だ。
私の魔力は容易に兆を超える。
「これを使いなさい。絶対に壊れず、どれだけの魔力すらも内包できる神剣だ。神を切るにはお誂え向きでしょう?」
銀鎧の男性、アーサー・ペンドラゴンから一本の剣を受け取る。
その名など今はどうでもいい。
少なくとも、陰瑠を含めた人類が死んだ原因を作り出したこの人達だけは、絶対に生かしておけない。
そうか、この感情を抱かせるためにあの人は犠牲になったのか……
なんて、くだらない。
剣を一振りする。
魔法と同様、それに魔力を込める事をイメージして。
「は?」
神々の内、男性の足の一本を切り飛ばす。
これだけの魔力があれば、剣を当てる必要すらない。
全ての一閃が陰瑠の
だから、回避も防御も無意味。
「手元が狂いました、次はちゃんと当てます」
「てめぇ、脚一本斬り飛ばした程度で調子に乗ってんじゃ……」
超速再生、それはクラススキルか。
確かにこの結界は異能は封印するが、体内魔力を使って発動されるクラススキルは封印できない。
「喋らないで下さい」
でも、関係ない。
どれだけ回復できたとしても、もう今の私にはそんな事は何も関係が無い。
「あ?」
「え……」
「何故……」
私が一閃に使用する消費魔力のパーセンテージよりも、彼らが再生に使用する魔力の割合の方が多いのだから。
いずれ魔力が付きて、それで終わる。
「読! 宮!」
なんで、名前なんて有るんですか?
「ヒール!」
なんで、そんなに必至そうに治療するんですか?
「私が護ります! カウンターシールド!」
なんで、仲間を庇ったりするんですか?
まるで人間みたいじゃないですか。
「無駄だぞ! 俺の能力は蘇生だ。どれだけ殺されても自己復活できる!」
「そうだよ! 私のタイムリープがあれば、幾らでもやり直せるんだから!」
「この空間内で異能を発動させる事はできません」
「は?」
「そんなわけないじゃん……」
「そんな……本当に発動できない」
なんで、そんな人間みたいな仕草をするんですか。
彼等は己の置かれている状況を把握したのか、抵抗を諦めた。
力では敵わず、異能は発動しない。
それは彼等にとって諦めるに値する事象だったようだ。
「何故ですか、何故よりにもよって貴方なのですか!? 私たちが作り出した天使のクセに!」
「何を言っているのか分かりません」
やっと、神様みたいな事を言ってくれた。
それは泣き言以外の何物でもなかったけど、けど天使とかまるで神様みたいだから、人じゃないから、これは殺人じゃなくて。
だから……
なんで……
なんで私がこんな事しなくちゃいけないの?
ねえ、陰瑠。
「これも、貴方の望んだ事なんですか?」
勝手に声が漏れてしまう。
まるで処刑台に上った様な三人は、斬首の時を待ちわびている。
私はその処刑人。この三人を殺すためだけにこの場に居る、ただ言われるままに人を殺す物言わぬ処刑人。
誰も助けてくれなかった。
皆、私のしたくない事をさせたがる。
「陰瑠。助けてよ」
私が殺した、私の英雄の名を呼ぶ。
もう、自分が分からない。
ここで、この三人を殺した後、じゃあ私も死ぬのだろうか。
それで、この物語は終わり。それで人類全員幸せになってそれで終わり。
そんな良くある
「よく頑張ったな」
なんでそこに貴方が居るんですか?
夢? それとも私はもう死んだの?
「眠っていい。もうお前は頑張らなくていいんだ。悪かったな、全部押し付けるような形になって。けどもうお前が背負う物は何もない、これはお前が人を殺せるようになるような
陰瑠の温もりが私の冷え切った心を温めていく。
眠たくなってくる。けど、その人の顔を少しでも長く視ていたくて、私は目を閉じられない。
「アーサー、ノーマンも助かったよ。それとあの人にも礼を言っておかないとな」
「陰瑠、貴方の仰せの通りに私の剣を渡しましたよ」
「陰瑠、いや儂の分身よ。第五〇術式、
「あ奴には礼など要らんよ。代わりに儂がお主の話でも土産にするさ」
陰瑠が、誰かと何か話しているけど、私にはその意味が分からない。
結局、最後まで陰瑠の考えが分からなかったな。
「信長のおっさん、どうなった?」
「『救世主』の力は我が『他化自在天』が問題なく模倣した」
そうか、サンキュ。
陰瑠がそう言った瞬間、信長さんの胸に陰瑠が短剣を突き入れた。
「起きろ、信長」
「はっ」
そして、影の様な物を纏った信長さんが起き上がる。
「『共食』の効果で獲得した『他化自在天』から『救世主』の力をコピー、これで『エクスカリバー』に込められ全世界の魔力が俺一人に集約した。この神剣に宿った魔力は消えていない、つまり、今の俺は若勝が集めた全魔力を込められたこの神剣を手にする権利を手に入れたことになる」
救世主の魔力は救世主を持つ人物しか扱えない。
だから、私が殺すしかなかった。
けど、陰瑠の話が本当なら。今の陰瑠にはその魔力を扱う権限がある事になる。
「悪いが神様、別にお前らが許されることはない。けど、お前等がダンジョンを発見した偉大な功労者である事は間違いない。それに、若勝も慈悲をもってしまった、これで俺がお前等を殺しても若勝が気に病む事になる。だから、お前等には強制的に従ってもらうぞ、来い、アビス」
聖剣の魔力が陰瑠から召喚された人型の影に吸い込まれていく。
これは、聖剣に込められた魔力を異能力のエネルギーとして供給している?
異能力は空気中の魔力を操る力、そんな事出来る訳が……
いや、魔力の込めた量で威力を変化させる魔法。あれを開発したのが、あの人だというのなら、もしかしたら出来るのかもしれない。
「悪いが、お前等をそのまま野放しにして置く事はできない。だから、誓約は三つだ。一つ、天界から外に出ない事、二つ、天界の外の俺以外の人間に干渉しない事、三つ、異能力の使用を禁止する。それ以外は自由にしろ」
陰瑠は、彼等を生かす道を選んだみたいだ。
「陰瑠……」
「ああ、休もうか。疲れてるだろ、後でしっかり説明するから」
「はい……」
ーー
「だから、なんで私に何も言ってくれなかったんですか!!!!!」
「ごめんなさい」
「私がどれだけ心配したと思ってるんですか!!!!」
「申し訳ありません」
若勝は起きると、直ぐに俺に正座をするように迫ってきた。
俺は諸々の蘇生事情を説明したが、どうやら彼女は許してくれる気は無いらしい。
第五〇術式は等価である物通しを入れ替える能力を持つ。
つまり、人一人の命を犠牲にする事で、人一人を生き返す事もできるって事だ。勿論、賢者ノーマンは俺と同じようにその魔法を使う事が出来ので、その魔法で俺は蘇生したわけだ。
ただ、この魔法の最大の欠点は、俺よりも体内魔力量の多い人間を交換対象にする必要があるという事だ。これに協力してくれた人は、本人が名乗らなかったから俺も名前は知らない。アインシュタインの爺さんは知ってるみたいだけど、結局最後まで教えてくれなかった。その異能は『殺戮王』、殺した生物の魔力を上限を超えて蓄える効果を持つ。俺の捕食の上位互換とも言える物だ。
偉人達、過去から来ていた人たちは神々の異能が使用不能になった事で消えていった。ダンジョンの入り口も同様に、アルベルトが作り出していた物だったから消失した。人類に残ったのは、英雄の記憶と異能力だけだった。
蘇生のタイミングは若勝がエクスカリバーに魔力を流した後。ちょっとずれてたけど、まあそれくらいのミスはしょうがない。十番台はそう言う魔法だ。
エクスカリバーの魔力を起動するには『救世主』を持つ若勝が必要不可欠だが、逆に言えばその力さえ持っていれば若勝以外でもその剣を扱える。
信長の異能力『他化自在天』は見た異能全てをコピーする規格外の能力だが、最大出力上限という劣化部分も存在する。
ただ、今回の場合は若勝が全人類から魔力を剣に移した後だったので出力は関与しない。それと、アビスに聖剣の魔力を流せたのは共食の効果が大きい。精神支配は異能だが、共食はクラススキルだ。クラススキルは魔法に近い性質を持ち、体内魔力を消費して消費した分その効力を上げる。
つまり、精神支配の異能は共食を通す事でクラススキルに分類された、ただそれだけの話だ。別に新しい技術でもなんでもない。
「聞いてるんですか陰瑠!!!!!」
「はい! って呼び捨て? 嬉しいんだけど」
「そんな事はどうでもいいんです!!」
「すいません!!」
彼女もそこまで気に病んだ様子は無い。俺が破壊した異世界の街というのも全部嘘だ。空間系の属性を操れる魔術師と、アルベルトによって街ごと別地点に転移させてそのタイミングでハリーの『核撃爆破』のスキルを使っただけ。
だから、俺が実際殺したのは阿鼻巣一人。
こいつも、もう要らないから解放した。
一回死んでるが、そんなのは些細な問題になったからだ。
『【死者の王】が条件を満たしたため【冥府の王】にクラスチェンジしました』
『配下に魂が宿ります』
アビスはその能力を悪用しない事を条件に、それ以外の全ての命令を撤回した。今後することもないだろう。まあ、殺した事実は変わりないから、阿鼻巣の家族には後で死ぬほど頭を下げようと思う。
「それと一つ、大事な話があるんだが……」
「な、なんですかそんな改まった顔をして。まさか、まだ危機は去っていないとか」
「俺と……」
「はい」
「結婚してくれないか?」
色々を仮定をすっ飛ばした仲だ。
「ほら俺殺されたし、やっぱ責任とって欲しいなぁ、みたいな」
「いい加減にしてください!!!! 私だって殺したく殺した訳じゃないんですよ…… 陰瑠さんが勘違いさせるから……」
若勝が身体を寄せて来る。安心する温もりだ。
「ああ、ごめんな。これからはお前に嘘は吐かないって約束するよ」
「絶対ですよ?」
「ああ、絶対だ」
ーー
『ダンジョンランキングが更新されます』
『ダンジョンランキング一位 アーサー・ペンドラゴン』
『ダンジョンランキング二位 夜坂陰瑠』
『ダンジョンランキング三位 シェリビア』
『ダンジョンランキング四位 賀上若勝』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます