独りで生きる

 大学の同級生の女の子に、CDを郵送したのは、夏休みが終わって一か月ばかり経ってからだ。あれからすっかり忘れており、僕はあるとき唐突に思い出して、実家の弟にお願いして彼女の住所に送ってもらった。次の休みに帰ったとき、その荷物は宛先不明の印を押されて、僕の机の上に置かれていた。念のため電話やメールもしたけれども、結局連絡はつかなかった。僕と彼女は、何かしらの僥倖に恵まれぬ限りは二度と会うことはできなくなった。

 江口はこれまでで一番仕事が長続きしているようで、出張でたまたま彼の住まいの近くによって、一緒に食事をしたときには、少し楽しそうにしていた。相変わらず口は悪いが、なんとなく前向きな口の悪さだ。少し肌の色艶がよく以前より健康的に見えた。付き合っている子が彼の面倒を見ているのかもしれない。相変わらずもてているようだ。

 白百合のバイトの子は、今は大学院に進学すること決め、本格的に研究にとりかかり、とても忙しそうだった。それでもときおりやりとりする電話やメールによれば、今の生活は概ね悪くないとのことだった。そして次の休みにまた食事に行くことになった。

 僕は相変わらずだ。仕事をし、家に帰り、本を読んで寝ちまう。あとは週に三回プールに行く。預金通帳の金額が確実に増えていくことだけが僕の時間経過を思い出させた。。

 ときおり、これで良かったのだろうかと思うことがある。とくに日曜日の夕方にそういう考えがよぎることが多い。もしかしたら僕の生き方は何もかも間違っていたのではないか。もう少しましな生き方があったのではないかと。そういうときはじっと目を閉じて、そういう考えが過ぎ去るのを待った。きっとこのままずっとそうやって生きていくのだろう。独りで生きるとはそういうことだ。 

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独りで生きる ヨータ @yo_n

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