第6章 建仁の義戦 1
同年霜月、京都某所、夜半。
その場に集う全員が、高座に座する大男が言葉を発するのを固唾を飲んで待ち受けていた。
「皆、よく聞け」
一同の視線を一身に受けた長茂が、厳かに口を開いた。
「奸賊共を討つ。奸賊とは即ち――鎌倉じゃ」
城家当主の言葉に、今更驚く者はいなかった。
皆がその一言を長く待ち侘びていたかのように深く頷いた。
向かい合う郎党達を見渡す長茂のすぐ傍らには、彼の妹である角姫、及びその甥である資家、資正の兄弟が座を並べている。
また、長茂を挟んだ反対側には城氏と連合を結ぶ各一門の頭目達も席を連ねており、その中には筆頭として高衡の姿もあった。その傍らには側近として控える雪丸の姿も見える。
長茂より決起の企てを知らせる使いが鎌倉の高衡の元を訪れたのは卯月の上旬であった。
決起参加の要請に、あの夜、景時より差し出された太刀を返した自分に是非はないものと高衡は即座に承諾を伝えたものの、漸く訪れようとしていた泰平の世に乱を企てること、そしてそれに加わることに深い逡巡はあった。だが今は既にその迷いは晴れていた。
……これが義ならば、そして我が身が武士なれば。
「まずは景時様への讒言の発端、小山朝政を討つ」
力を込めて長茂が仇敵の名を口にする。
「次に和田義盛、三浦義村ら我らが主君を陥れし首謀者とそれに組した者共、並びに連判状の主だったものは全て討ち取れ!」
一門最大の庇護者たる景時の仇の名が読み上げられるたびに、郎党達の目がギラギラと光る。
「……最後に全ての諸悪の根源である大倉御所、北条及び頼家一味を潰す。腐り果てた幕府を打ち倒し、真に我ら天下の武士達を治めるに能う棟梁を新たに立てる。我ら越後武者の手でそれを成し遂げるのじゃ!」
長茂の檄に一同が威勢よく応じる。
「決行は翌年初春。鎌倉の動向を見計らいながら、先に述べた奸賊共の屋敷を一斉に攻める。同時に、既に越後にて待機させている資盛(長茂の甥)が蒲原の鳥坂城を根城とし周辺勢力を抑える。角は明朝すぐにでも郎党を引き連れ出発し資盛の下へ合流の上備えを進めよ」
「はっ!」
力強く角が答えた。
長茂が話し終えたところで、高衡が口を開く。
「事を起こすにあたり、まず勅旨を賜らねばならぬ。朝廷より幕府討伐の御命を受ければ、我らは錦旗を頂く官軍であり、即ち我らの蜂起は真っ当な大義を掲げる義戦として名実共に天下に認められる。都合の良いことに、今の鎌倉は北条らの策謀により自らの手で不平と混乱を世の御家人や公卿達に撒き散らしておる。上手くこの機に乗じて挙兵すれば多くの武士団、京の公家達を味方につけることが出来よう。勅旨を得られるかどうか、この戦の勝敗はこの一局に懸かっておる。努々気を抜かれるな」
一同、成程と頷く。
「また、事を起こす前に鎌倉に知られれば朝廷に対し先手を打たれる可能性もある。くれぐれも先走った行動は自制されたし。宜しいな」
確認するように高衡は皆を見渡した。
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