#40 reSTARt
考えてみれば、日常生活で祈ったり、お願いしたりして良い場面は割とたくさんあることに気づく。
初詣、誕生日、七夕、クリスマス、神社にふらりと立ち寄った時、流れ星を見た時。
ざっとあげただけでもこんなにある。
だけど、それが叶う確率は極めて低いことを、とうの昔に私は知っている。
私は全てのタイミングで同じことを祈り、何度も何度も願い続けているのに、一向に叶う気配がないのだ。
まぁ冷静に考えてみれば、叶わないのは当然なのである。
……神様と交渉して生まれ変わりたいなんていう願望、すぐに叶ったら逆に驚きだ。
私は、ある事柄について、小学校に入る辺りから薄々気づくようになった。そして中学に入ってから、それは確信に変わった。
母親との反りが、合わなすぎるのだ。
DNA鑑定した方が良いのではないかと思うくらいに、合わないのだ。
何が合わないって……
食の好み。色の好み。服装の好み。几帳面の程度。1日のリズム。行きたい場所。得意なこと。趣味。好きな本のジャンル。好きなアーティスト。元気になる時間。感情の起伏。
以前興味本意で占い師に見てもらったら、「お母様とあなたは星が真逆の位置にあります。お母様の運気が良い時にあなたが悪く、あなたが良い時にはお母様は最悪の運気なのです。地球の北極と南極みたいな立ち位置の親子さんなのですね」と言われた。星が違うと言われちゃあ、もうどうしようもない。ちっぽけで、無名な人間でしかない今の私には、星を動かす力なんか1ミリもないのだから。唯一の望みである“グレートコンジャンクション”、すなわち星の大接近の可能性すら絶望的だという。もう半永久的に、私たちの星は出逢うことがないのだと。
混乱した私は、じゃあなぜ私たちは
まぁざっくり言ってしまえば、母と私の間に横たわるのは、価値観の相違というものだ。占い師のいう“星”はすなわち、価値観のことだと考えている。
価値観の相違は離婚の原因としても多く挙げられるくらいなのだから、私が母から離れたい、と思っても全く不思議ではないはずである。
しかし世の中というのは本当に奇妙なもので、夫婦関係なら許されることも、親子関係だと途端に許されなくなるのだ。
「お母さんと離れたいなんて、なんつーこといってんのあんた」
「それはさすがに親不孝じゃない?」
「価値観合わないっていっても、親子なんだからさ。半分遺伝子もらってるんだから、絶対に分かり合えないなんてことはないでしょ」
遺伝子の繋がりだけで全てが片付くというのなら、家族間の殺人事件など絶対に起こらないと思うのだが。
事実、殺人事件の約6割は家族によるものである。他人同士のケースより圧倒的に多い。この事実を前にしてもまだ、遺伝子の繋がりで全てが片付くと言い続けられる輩はどれほどいるのだろう。
家族だから分かり合える! 親子なら理解できる! なんて幻想が成り立つ世界なら、もっともっと平和なはずだ。刑事の仕事も結構減るだろう。
あー離れたい。
でも物事はそう簡単には行かない。何も分かっていない奴らは、どこまでも無責任な言葉を放ち続けるのだ。
「嫌なら家を出て自立しろ」、「縁を切ってしまえばいい」、「悩んで家を出ないのは結局自分で下した決断に過ぎない」、なんて言う輩はゴロゴロいる。
しかし学生や未成年という立場が、どれほど社会的に見て脆弱なことか。
偉そうに言う人間は、堅固な立場に安住しているから言えるのだ。高みの見物だから言えるのだ。それだけ経済的基盤が安心感に与える影響は大きい。
まぁだから、自立をサクッと実行することだって難しく。それに、今は猛烈に離れたいけど、縁切りまで望むほど
かと言ってこのまま共に生きていると、思い通りにならない娘を育て続ける母親にも謎の罪悪感が湧いてきて。母の遺伝子だけなら、育てやすかったのかもしれない。新たな“異物”が混入して、育てづらくなったのかもしれない。そんな謎めいた同情まで芽生えてくる。
……おかしいよな、産むと決断したのは彼女であって私ではないのに、意識のないまま生まれてきた方が罪悪感を抱いている。私も無意識のうちに、この不条理を抱えたまま産まれても良いと自分で判断していたのだろうか。
もう、何が何だかよく分からなくなってきてしまった。一旦リセットしてみたい。
だから“星の位置を調整する”ためにも、生まれ変わりたいのである。
母が私の顔を見る度に溜め息をつくのをなくし、私も過剰にイライラすることなく平穏に過ごしたいのだ。平和を求めているだけなのに。
でもその願いは叶いそうにない。
まぁ、分かっている。平和なんて世界が70年以上願っても達成されないのだから、四半世紀も生きていない人間が願い続けたって叶いやしない。
それにしても神様はとてつもなく耳が遠いのか、他の星や国の案件に長らく追われているのか、案件が多すぎて燃え尽きたのか。
どれにしたって、神様が今使い物にならないことは事実だ。
……ったく、あんだけお
だから私は、願う代わりに夢を持つようになった。
将来宇宙飛行士や宇宙系の研究者にでもなって、物理的に星の位置を変えてしまおうと
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