#28 めんどいことはやめようよ
——みなさん、こんにちは! 今日はですね、何もかもが最先端だという街に来ています! でも、見てください。パッと見建物とか普通ですよね? 一体、どこが最先端なんでしょう。ちょっとあそこのカップルに聞いてみましょうか。……すみませーん、今ちょっとお話いいですか?
「え、なになに、テレビ?! うわぁやっばぁ〜今うちらテレビ出てんのウケる〜! お話全然いいですよ〜! ねっ、カイくん」
——ありがとうございます〜! あの、この街は何もかもが最先端って聞いたんですけど、具体的に何が最先端なんですか?
「あぁ、もしかしてこのこと?」
——タブレット端末、ですか?
「この街は全員、小学生になったら1人1台このタブレットを持つの。これめっちゃ便利だよ!」
——お姉さん、もしかして荷物このタブレットだけですか?!
「うん。ここに定期券もお金も保険証も免許も何もかも入ってるし! あ、さすがにメイク道具は持ってるけどね? ほら。あと充電器も」
——すごい。ほんとに何もかも入ってるんですね……!
「ここに全部登録してるから。名前、生年月日、血液型、知能指数、性格特性などなど。めんどい作業はぜーんぶこれにお任せ」
——ぷ、プライバシーとかセキュリティとかは大丈夫なんですか?
「あ、この端末はエグいくらい細かい生体認証をしないと開けないから大丈夫みたいよ」
——なるほど……。これ、他に便利な所ありますか?
「んー。……あ! そういえば、カイくんと出会ったのもこれのおかげなの」
——そうなんですか?
「高校生くらいの恋愛適齢期になると、タブレットが自動的に私と合いそうな相手を探してくれるわけ。性格特性とか好きそうなタイプとかを中のAIが判断して。それで私の通学圏内の範囲でフリーの人を候補でいくつか挙げてくれて、気に入った人とチャットして、うまく行けば付き合える」
——出会い系の機能までインストールされてるんですか?!
「そうだよ〜! で、これでカイくんと出会って、結婚しました〜!」
——ご結婚されてたんですか?! おめでとうございます!
「ありがとうございます。去年結婚したの。2人でこっから役所のアプリ開いて、互いに必要事項記入して、最後に指紋認証して送信したら結婚できた♡」
——え、もしかして婚姻届がオンライン?!
「当たり前ですよ。離婚届もオンラインなんだから。他の街では役所わざわざ行って、人気の日程には並ぶ人もいるみたいですけど、それ時間の無駄じゃない? めんどくない? そんならオンラインにして、さっさと夫婦として2人でいれる時間にした方が良くない?」
——すごい、先進的な意見ですね……! 家族になるのもタブレットで……
「そういえば、家族増えたんです! 今日はそのお祝いで♡」
——え、増えた……? もしかして、お子さん生まれたんですか?
「そうなの〜! 昨日!」
——え?! ちょ、ちょっと待って、昨日ご出産されたんですか? 母体そんな元気ですか?! だ、旦那さんも奥さん翌日に外連れ出すって!
「あぁ、他の街みたいに妊娠・出産とかないんで。他の街の人に通じるように言うと、妻は出産してないですよ」
——ってことは、代理出産……?
「俺たちの遺伝子を郵送して、それを元に研究所の人が子ども作ってくれて、いわゆる出産できるくらいの大きさになるまであっちで管理してくれるんすよ。で、昨日その大きさになりましたよ、って連絡が」
——ええええ?! 無痛分娩とは違う次元で、お腹を痛めずに、“出産”が可能だと?!
「え、なんかその言い方ちょっとムカつくんだけど。お腹痛めて生んだ子には愛着が湧くとか言うけどさ、それって裏を返したら、お腹痛めないで生んだ子は愛されなくても仕方ないってこと? 親が愛せなくても仕方ないの? 誰でも生まれてきた子は可愛いじゃん。妊娠なんてしないで一旦預けた方がマタニティブルーなんてないし、産後うつもないし、むしろめっちゃ準備万端の状態で赤ちゃん迎えられるじゃん? 妊娠なんてめんどすぎる」
——なるほど……。気分を害する発言してしまって、ごめんなさい。産後うつがないのは衝撃です。出産も任せていいんですね
「うん。めんどいじゃん」
——今日からお子さんを引き取るんですか?
「ううん」
——え?
「半日だけ研究所に行って面倒みて、あと半日は研究員さんにみてもらうよ、小学校に入るまで。プロに任せた方がいいじゃん? めんどいし」
——え、で、でも、小さいうちにお出かけして思い出作りとか、お友達作りとか……
「お出かけもプロに任せたほうが失敗ないって。友達は、小学校に入ったらAIが作ってくれるから心配ないよ? なんでそこまで私たちが関与すんの? めんどいじゃん。愛情はあるよ? でもめんどいもんはめんどい。カイくんとの時間が欲しい」
——じゃあ、なぜ家族を……?
「なぜ家族を作ったか、って聞きたいの?」
——は、はい
「……それは、実家に結婚、義実家に孫を急かされるのがめんどいからよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます