#17 三村慶三とひい、ふう、みい
突然すみませんね。私、三村慶三と申します。ちょっと今何もやることがないから、あなたとお話したいなぁ、なんて思って。
あ、名前はね、漢数字の三に、村に、喜ばしいこととかの慶事の慶に、漢数字の三、って書きます。お気づきですかね、2ヶ所も漢数字の三が入ってるんですよ。祖父が命名しました。
ここであなたと出会ったのも、きっと何かの縁だ。少し面白い話をしましょうか。
私の人生は、ともかく3という数字に支配されているんです。
誕生日は3月3日。
3歳でピアノを始めて、9歳の時に地域のコンクールで3位入賞。1番多かった出席番号は33番でした。ちなみに小学校は6年間、ずっと3組。
私は一人っ子で3人家族です。母は出産を機に、仕事を辞めて専業主婦になりました。祖母が「三つ子の魂百まで。3歳までは必ず専業主婦として慶三ちゃんと一緒にいなさい」と厳しく言ったからだそうです。そう言えば、ことわざも、三が入るものが多いですよね。
三日坊主。美人は三日で飽きる。三人寄れば文殊の知恵。
なぜ日本人は、こんなに3が好きなのでしょう。他にも食事は1日3回とか、3分でできるカップラーメンとか、3分で手軽に勉強できるアプリとか、3学期制とか……。
結論が出ないので、話を戻しましょうか。
私は臆病な子どもで、丑三つ時を酷く恐れていました。うっかりブラック企業に就職してしまい、辞めたくなった時も、上司が怖くて躊躇して。石の上にも三年、という気持ちで勤め続けたら、ちょうど3年経った時に会社が潰れました。
それから新たな職場を探して3つの職場の採用試験を受けたのですが、潰れたブラック企業出身の、何の取り柄もない凡人なぞを雇ってくれる所が見当たらず。気づけば三十路を迎えていて。
30歳になった途端、両親は「結婚くらいしてくれ」だの、「一人息子なんだからお嫁が欲しい」だの、「孫の顔が見たい」だの、「孫は3人希望」だの、豪雨のせいで外れたマンホールのごとく、勢い良く溢れ出る注文を私に押し付けてきたんですよ。30になった瞬間にお嫁や孫が空から降ってくるわけないじゃないですか。そんな現象があるのなら、この国に少子化なんて言葉は存在しないはずです。孫はコウノトリが空から運んでくれるかもしれませんが、嫁を運ぶのはコウノトリの仕事ではありませんからね。
……ははっ、ついつい愚痴を言ってしまいました。私はね、3ヶ月以上の恋愛なんかしたことないんですよ。いわゆる魔の3ヶ月の餌食になるんです。慶三という、古風が過ぎる名前もこの
定職に就くことが困難で、そんな社会的地位では恋愛だって困難で、結婚なんか夢のまた夢で、気づけば3年の月日が流れていました。今は33歳です。
コウノトリの姿を見ることは、もうないでしょう。
というのも、現在私は“自分探し”と銘打ってなけなしの全財産を持って出かけた先で、遭難しているからです。
日本三大名山の1つに登っていたのですが、急に天候が悪化し、視界も悪くなりまして。体力には多少の自信があったのですが、3000m級に挑戦するのはまだ早かったのでしょうか。ルートを間違えたようで道も途端に険しくなり、周りに人などいない中、私は寒さに耐えています。
人間が飲み食いしない状態で生きられるのは3日だそうですね。ニュースで報道されてるのか、救助ヘリが出てるのか知りませんが、私は誰にも見つけられることなく、救助を求める声もうまく出せず、今日でその3日目を迎えます。
本当に、私の人生にはどこまでも3がくっついてきますねぇ……。神様は3と心中しろ、とでも言いたいようです。
さて、そろそろ三途の川のほとりに向かう頃合いでしょうか。
……ところで、あなたは一体どなたです?
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