飴玉 専業主婦

@abokado-no-yume

第1話

カラコロ


口の中にいっぱいに広がるフルーツの味

飴玉が小気味よく口の中で転がって、美味しい


飴が好き。

まん丸のビー玉のような飴玉が子どもの頃から好きだった。


でも、幸せの時間はすぐなくなってしまう

傷つけないようにそっと舐めてても

いつのまにか飴玉は溶けて消えてしまう

しばらく味と香りの余韻が残っても、次の飴を放り込まないと新しい幸せは訪れない。だから、ポーチには沢山の飴がいつも入ってる。

私の幸せは溶けやすい。


触ったポーチのチェック柄が、手に透ける。ピアノが弾けそうとよく言われた細い手は、指先が時々消える。

ちなみにピアノは児童館で猫ふんじゃったを練習したくらい。しかも弾けなかったし。


私の名前は平坂夕美(ひらさか ゆうみ)

31歳。

長い茶色く染めた髪がフワフワと揺れている。美容院行っておいて正解だった。行きたての綺麗なままの髪はプロにスタイリングされて完璧。

多摩で産まれ、多摩で育ち、大学出て派遣先で出会った五つ上の夫と28で結婚。

名の知れた企業で働く夫は朝から晩まで忙しく、自分の母もそうだったことから何の疑いもなく専業主婦になった。


そして

31歳で自殺。

住んでた新築のマンションの14階からポーンとね。

最後に覚えているのは、春の薄水色の空。


目覚めたら自分の墓の上だった。多摩霊園なんてよく入れたなあ。

友達のうちなんて抽選待ちって言ってたのに。

くじ運いいなあ相変わらず私。


死後の世界なんて信じていなかったけど、どうやら私は素直に成仏とやらができないみたい。

大好きな飴玉を頬張って、見慣れた町の上を漂っている。

今はちょうど京王線は聖蹟桜ヶ丘あたり。ああ、京王デパート、会員はあともう1時間駐車無料だと助かるのよねー


あ、ちなみにどこかに引っ張られ中。

こう、見えない糸で引っ張られているようというのがぴったりな感じでフワフワと連れていかれる。


何をしにって?

私もよくわからない。


ただ、わかっていることはある。

都内で、専業主婦で、うまくいってない家庭。


たぶん、考えている感じと違うんだけど

きっと神様がいるんだろうな。


おそらく私は罰を受けてる。


それじゃあまあ、次はどんなお宅か楽しみにしておくわー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飴玉 専業主婦 @abokado-no-yume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る