第3話 招かれる根城〜優越感が俺を楽しませる〜

 俺の事を理解してくれたのか。

 女の子は俺の名前を小さな声で復唱してくれた。


「曽根田……鬼象……。魔王様」

 

 とは言え、現実を受け止めたくない気持ちが先走り。

 真実から目を背けていた俺は、此処いらでしっかりと向き合う事にした。


 これって即ち異世界なんだよな……。

 一重に、異世界って言葉だけでまとめるのも致し方ないが。

 ……例えようがないのが現実。


 さてこれからどうした物か…………。

 と、俺は先の事を考え初めたのだが。

 まずは女の子と叔父さんをどうにかせねばならない、とは言っても、二人にしか俺は頼れる人がいない。


 運が良いのか悪いのか、はたまたこれこそが運命なのか。


 俺は女の子に話しかけてみた。

「魔王って言葉はいらないかな。俺は鬼象でいいよ、皆そう呼んでいたし、だから君も、俺の事を鬼象って呼んでくれないか?」

「魔王様…………鬼象?」

「そうそう鬼象」


 女の子は何かと戦っているのか、何度も俺の名前を呼び、どうにか魔王と言う言葉を繋ぎ合わせようとしていたのだ。


「魔王様は鬼象。鬼象は魔王様? 何故魔王様は魔王様じゃないの? 鬼象なの? ……鬼象が魔王様?」


 正直な所、魔王と言う別名とは切り離して考えて欲しいけど、それは無理そうだ。


 妙に、女の子が悩み苦しむ姿を見ていると、どうしてかな、凄く愛らしさを感じてしまう。

 まるで、子供が解けない難問に挑み苦戦するその姿、そして解けた時の喜びは超絶可愛んだろな。


 残念ながら解ける未来は俺には見えないけど。


 そんな気持ちで女の子を見ていると、自然と手が動いていた。

 俺の手は、しゃがむ女の子の頭上に触れた。

 嫌がる素振りも見せない女の子。

 喜んでいるとまで思える表情。

 だから、もっと頭を撫でてやった。

 

 本当、小さい女の子はいつの世も可愛いものだな。


 俺の手によって、クシャっとなる髪の毛の事など気にしていない様子だが、何処か不機嫌に俺を見上げ頬を膨らませている。


 俺は、頭を撫でられるのが嫌なのかと思ったが。


「鬼象……魔王様。……君じゃない、アルネス。名前、名前あります──アルネスって。き、み、じゃないです」

 なる程そう言う事か。

 君呼ばわりされた事に納得出来なかったのか。

 それならと、俺は名を呼ぶ。


「アルネス!」

「鬼象……魔王様。はい、お呼びでしょうか?」


 なんと愛らしい。

 その笑顔いただきました。

 と、俺にも違和感があった。


 鬼象、間を開け、魔王様。と、呼ばれるのは少々俺も嫌な気持ち。

 だから、アルネスに正しさ。


「アルネス。俺は鬼象で良い……。魔王様って呼んだら君って呼ぶよ、アルネスの事」


 少し、悪戯にアルネスをからかってみたが、今回は素直に聞き入れてくれた。


「わかった。鬼象、鬼象、鬼象……」


 そんなに、何度も名前を呼ばれると、返事に困るよ。とほほ。

 でも、アルネスは俺に対してはこの態度だが、叔父さんに対しては冷たいって言うか、まるで従者のような関係性に見えてしまう。


 アルネスと触れ合っている最中でも、叔父さんの視線はちらちら感じる。

 たがら俺は叔父さんに尋ねてみた。

 ──アルネスとの関係性について。


「叔父さん? アルネスとはどう言った関係なんですか? 孫ではないですよね? …………」


 つい余計な言葉を付け足してしまった。


「それは困りましたな。アルネス様は魔王様の後任者にして、我らの主人である方です故、関係生と聞かれましても、主人としか」

「主人? こんな小さい女の子が?」


 俺は、思いもよらない事実に驚いて見せてしまった。

 その事に対し、不福を感じてしまったのか? アルネスは辛辣にも叔父さんを責め立てる。


「ウリュード、我の邪魔をするでない。鬼象と戯れておるのは我でありお主じゃないのじゃから。──つぐむがよい」


 アルネスの機嫌を損ねてしまったと、叔父さんは解釈し、アルネスの辛辣な物言い通り、口を閉じ元の体制を保っていた。


 少しアルネスを責めてみた。

「アルネス、そんな言い方しなくても。叔父さんは説明してくれただけなんだから……」


 これは駄目だと、俺は予期した。


 それも、叔父さんを庇う度に、アルネスの機嫌は目に見えて分かってしまう。感情が読み易いのは良い事だが、これ以上叔父さんに被害を与えてしまうのは、俺の心が居た堪れない。


「アルネス……は? 此処で暮らしてるいの?」

 叔父さんから意識を逸らさす為とはいえ、我ながらベタな質問をしてしまった。


 そもそも思い浮かぶ話題がこれしかなかったのも事実。

 アルネスとはほんの数分前に出会ったばかりなのだから。

 ぐいぐい行くのも、俺としては好ましくない。

 それに引き換え子供。

 尚更絡み方がわからない…………。


 あぁーそう言えば、親戚の子供をあやした事あったなぁ。

 でも、あれは例外か、三歳ぐらいの女の子だったしな。


 アルネスは十歳ぐらいか…………。

 

 ──アルネスは俺の質問にしっかり答えてくれた。


「鬼象の帰る場所。アルネスはしっかり守ってた。うぅーん、でも、鬼象は……記憶ない?」


 どうしてなんだろか? 

 俺と会話する時の子供じみた喋り方……こうも口調を変えられると将来が不安になるな……アルネスは。って言っても子供なんだけど。それより、俺は何を考えてるんだ……。


 ギャップに俺は何かに目覚めた? そんな事はないない。

 っに、しても、アルネスって誰かと間違えてるよな?

 俺への距離の詰め方が。初めて会う人のそれじゃないんだよなぁ。まっ、魔王様と呼んでいる辺り、あらかじそうなんだろぉーけど。

 …………取り敢えず今は考えないようにしよう。


「そうだねアルネス。記憶はあるんだけど……此処の記憶はないかな」

「なら、案内する。皆喜ぶ。鬼象が帰ってきた事に」


 アルネスは大層喜んだ笑顔を俺に振りまく。 

 余程嬉しかったのか、子供のようにはしゃぐ姿は何処か愛らしかった。


 アルネスは俺の手を取り空間を切り裂いたのだ。

 簡単な動作で。まるで紙を切るよに。

 

 アルネスは俺の手を引き、切れ目に俺を誘導した。

 俺は引かれるがままに入った。 


 勿論背後には叔父さんも後を追う様について来ていた。


 切り裂かれた空間の先には、突如とし広大な大広間が俺の目に飛び込む。


 俺は言葉を失いかけた。

 まるで映画の世界観を具現化したその物だったからである。


 田舎者みたいな感動を抱く自分が少々恥ずかしがったが、こればかりは仕方ないでしょ。


 二階まで吹き抜けた空間に、バルコニー状の手摺り、無数に天から吊るされている光輝くシャンデリア、見る者を圧倒してしまうデザイン、これを手掛けた者のセンスに深く興味を抱いてしまう。


 そして、一際目立つ中央に配置された迫力ある階段。

 奥のアーチの開口に向かって優美に伸びるデザインは、優越感を味わえとでも言うように、俺に語りかけている感覚に酔いしれる。


「アルネス……誰がこれを手掛けたんだ、って聞いても俺の知らない人だわな? ──センスが俺のドストライクだわ」


 俺はテンション爆上げに子供返りしたかのように瞳をキラキラさせていたに違いない。


「鬼象のデザイン、鬼象が考えた」

「何言ってんだよアルネス。俺じゃないぞ」

「鬼象だよ。──そうだよなウリュード」

「さようで御座います。魔王様こと曽根田様が手掛けたデザインで御座います」

「だ、そうです。鬼象」

 

 俺は一旦聞かなかった事にした。

 それにしても凄すぎる。


 俺は飽きる事なく周囲を見渡していたが、ある一点、天井に目が止まってしまう。


「あれは何をデザインしているんだ?」


 びっしりと描かれた天井からは、妙な威圧感がこの大広間に不適切さを感じさせてしまっていた。

 だからこそ聞かずにはいられなかった。


「ウリュード、あれは何を意味している物なんだ?」

「あれはですね、この屋敷全てを覆い隠す為の結界魔法を描いております。魔王様こと曽根田様が直々に創り上げた特殊魔法です」

「だ、そうてす。鬼象」

「結界魔法……そう言えば叔父さんも何かやってなかったか?」

「さようで御座います。あれは《瞬時移界デニト》と言い記憶に残る場所でしたら何処でも移動可能な魔法で御座います」

「えぇー移動魔法ねぇー。やばいでしょ普通に」


 この世界のレベルって人類の発明を普通に凌駕してるじゃん。

 そもそも魔法が日常って事は……未知なる領域じゃん。


「ですが万能って訳ではありません。距離により魔力を消費する故、それに見合った者にしか使えませぬ、魔王様……」

 と叔父さんが気持ちよく喋る姿に気分を害したのか、アルネスが言葉を遮ってしまう。

「うるさいウリュード。言われた事だけ語れば良い。鬼象は我とおるのだぞ」

 

 アルネスが不機嫌になる事に叔父さんは手を焼いてしまう為。

 別の機会、アルネスがいない時を狙って話を聞かせてもろおううと俺は考え、一際目立つ階段に向け、一歩足を進ませ周囲を楽しみ、一歩足を進ませ周囲を楽しみを繰り返し、空間を味わっていた。

 

 両サイドの壁にはこの空間に合わせたように壁画が飾られており、よりダイナミックに優越感が俺の心を躍らせる、


 階段を上がる前から見えていたんだが。

 階段の先アーチの開口付近の壁にはアルネス、叔父さん、その他知らない四名の肖像画がバランス良く飾られており、この屋敷の偉い人ってのが伝わってくる。

 その中にも叔父さんの姿がある事に、少々驚いたが、普通に偉い人なんだなぁって。叔父さんを一瞥してしまった。

 それにしてもアルネスの肖像画は、この数時間で見ていたアルネスには到底見えない。

 まるで何もかもを失ったかのような儚き少女を物語っているが、優美さが絵のタッチでより事細かく描かれ、背中に流れる白髪の髪一本一本丁寧にアルネスの特徴を捉えている。


「なぁ。アルネスだけ背中向けて、なんで斜め下に視線向けんてんの? 他の人はおもいっきり正面なのに」

「わからない。気分だったから……かな?」

「気分なんだ……。まっ触れないでおくよ。何となく……」


 とは言ってもアルネスの肖像画からうけるインスピレーションは、最初にも感じた儚さだな。

 恐らく魔王とやらを失ったのがきっかけなのかなって、俺はこの時、薄らだが思った。


 本人もあまり話したくないご様子な事だし、俺が聞くのも筋違いな気もする。


 それにしても他の四人の肖像画は威圧感すげぇーな。


 俺……会いたくないわぁー。

 多分、この流れは紹介される羽目になるんだろぉーけど。


 それよりか、この状況に慣れつつある自分が恐ろしいまである。


 階段先のアーチを潜った先に……俺は驚愕してしまう。


 ──これは絶対にあり得ない。


 

 

 

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転生魔王の黙示録〜俺の怒りは神に向いた。踏ん反り返る神よ、そこで見ているが良い〜 uyosiの脳内は茜色 @uyosi

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