17 彼女の友達は恋多き女子で?
ふわりと漂うコーヒーの香りに、ツンとしたアルコールの匂いが混じる。
みさぎが
傷口にペタリとアルコールが触れて、みさぎは「くぅ」とその痛みを
「痛ぁい」
「ふふっ。みさぎちゃん、可愛い」
一華は天使の
傷口がびっしょりと消毒液に
「このくらいかしら」
じんわりと血の
「これでばっちりよ」
「ありがとうございます!」
みさぎは頭を下げると、膝を引き寄せてふぅふぅと息を吹きかけた。
ふと柱の時計を見上げると、一時間目終了まではまだ十分も残っている。思ったより怪我は軽く、今戻れば再びハードルを飛ばなくてはならない気がした。
「戻りたくないなら、チャイムが鳴るまで休んでいく? あとちょっとだから構わないわよ」
「本当ですか! なら居させて下さい」
みさぎの意を
「ここ座るわね」
一華は熊柄のマグカップを片手に、みさぎの向かいに腰を下ろした。さっき智が座っていた場所だ。
みさぎはイチゴ柄のグラスに入った麦茶を一口飲んで、そっと彼女に聞いてみる。
「あの、先生」
「なぁに?」
「さっきの、本気だと思いますか?」
「転校生の
「はい」とみさぎは
一華とはこの間プールで会ったり何度か顔を合わせたことはあるが、こうして話すのは初めてだった。
「昨日会ったばかりでそんなこと言われても、私はよく分からなくて」
「ホント、みさぎちゃんも困っちゃうわよね。
「本人はそうじゃないって言ってたんですけど、どうなんだろう」
コーヒーにふぅっと息を吹き付けて、一華は「そうねぇ」と首を
「本人の気持ちなんて他の人には分からないことだけど、告白って相当なエネルギーを使うものだと思うの。勇気を振り絞って伝えた言葉なんだと思うから、嘘ってことはないんじゃない?」
「そう……なんですかね」
「うん。けど、そうやってみさぎちゃんが納得できないうちは、「はい」なんて答える義務もないのよ?」
「は、はい」
「自分の気持ちに整理がつかないまま、何となく「付き合います」って言っちゃったら、後で後悔するかもしれない。それは自分にも相手にも良くないわ」
「はい」
一華の言葉を一つ一つ胸に刻み込むように、みさぎは返事する。
「けど、ちゃんと答えが出てるのに
一華は一瞬何かを思ったようにムッと黙り、とあるエピソードを話してくれた。
「私の友達が、やっぱり二人の男子の間で悩んでたことがあるの」
「へぇ」
「どっちも好きで選べないとか言うのよ?
「そ、そうですね」
ムキになる一華は、その友達に対して少なからず怒っているようだ。
「けど、本当はそうじゃないって分かってた。あの子はずっと片方の男の子が好きだったのよ」
「じゃあどうして、そのお友達はその人を選ばなかったんですか?」
「何でだろうね。みさぎちゃんはどう思う?」
「えっ」
逆に聞かれて、きょとんとしてしまう。
みさぎは目をパチパチと瞬いた。
「な、何でだろう……もしその二人のどっちとも普段から仲が良かったなら、関係を壊したくなかったとか……」
ありきたりな答えだろうかと思いながら答えると、一華は小さな
「結局、その三人がどうなったかは、まだ分からないのよ」
「現在進行形ってことですか?」
「まぁそういうことね。見てるこっちがイライラしちゃう」
ムッとする一華を、みさぎは何だか可愛いなと思った。
「ごめんなさいね、変な話しちゃって。色々アドバイスしてあげられたらいいんだけど、私も恋人いないから、他人の受け売りになっちゃうのよね」
「そうなんですか? 先生可愛いから、モテモテだと思ってました」
「ふふっ、ありがとう。私はね、昔好きだった人を忘れられないのよ。もっと良い人が現れてくれればいいのに」
「ね」と肩をすくめる一華に、「すみません」とみさぎは謝った。
「私の事は気にしないで。今は貴女の話でしょ? みさぎちゃんは、自分の気持ちにもう一歩前へ進まなきゃ。一番大事なのは、好きな人にはちゃんと好きだって伝える事よ?」
「はい!」
勢い良く立ち上がって、みさぎは頭を下げる。
一時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「またいつでも麦茶飲みに来てね」
一華はマグカップをテーブルへ放し、両手を振った。
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