10 お兄ちゃん
窓に沿ったベンチシートに、
「今日の
「湊くんも思ったよね? そう言えばこの間プールに行った後、咲ちゃん熱出したんだって。もう治った後に言われたから、お見舞いには行けなかったんだけど」
「へぇ。病気とは無縁そうなのに。そんな理由なら納得」
朝からの咲の様子に湊も気付いていたようだ。理由が本当に熱のせいなのかどうかは分からないが、あの日はとても暑かった。
ボディーガードという
案の定、咲が他校の男子に声を掛けられたりとイベント的な事件はあったが、これと言って風邪をひくようなことをした覚えはない。
いつも下ろしている髪をポニーテールにしたから……というわけではないだろう。
「もう雨は平気?」
向かいの窓に広がる空を
暗い雲で
「なら良かった。さっきは不安にさせてごめんな」
「十二月に現れるっていう怪獣の事? ううん、本当の事聞きたいって思ったのは私たちだし、ちゃんと話してくれただけなんだから、気にしないで」
「
「それより、湊くんはそのハロンを倒したら元の世界に戻っちゃうの?」
ふとそんなことが気になって尋ねると、湊は「いや」と首を振った。
「アッシュとラルは死んでからこっちに来てるから、もう向こうに戻る場所はないよ。ルーシャの力で、魂をこっちの身体に継がせたんだ。顔や体も今の親に貰ったものだよ」
「じゃあ、昔の記憶はあるけど、今の湊くんはずっとそのままってことなんだね」
「そういうこと」
「へぇぇええ」とみさぎは目を丸くする。
そういえば智が指摘していたが、湊は前の身体では眼鏡を掛けていなかったらしい。
「なら良かった。戦いが終わってお別れになんてことになったら寂しいって思ったから」
「そう思う?」
少し照れた顔を隠すように、湊は口元に手を当てた。
みさぎが「うん」と大きく
「俺たちはリーナとの別れを選ばなかった。何も言わずに彼女を残して転生してきたんだ。言ったらきっとついてくるって言うと思ったし、そんな彼女を
ハロンと戦ってボロボロになったリーナは、
この世界に来て十五年以上も生きている湊が、いまだに彼女との別れを後悔して悩んでいるというなら、それはきっと……。
「ラルはリーナさんが好きだったんだね」
「え?」
「智くんもそう。二人の話聞いてると、ラルもアッシュもそうだったのかなって思うよ。そうだね……リーナさんは二人の事怒ってると思うよ。たとえ辛くても、さよならは言いたかったと思うもん」
「やっぱり、そうだよね」
湊は苦笑して
「けど、だからって二人を
そんなことを言ったら、彼は手段を探して元の世界へ帰って行ってしまいそうな気がした。
どうせできないんだろうという気持ちと、できるのかもしれないという不安が入り混じって、みさぎは膝の上でスカートを握りしめる。
ハロンを倒した後の彼を、この世界に
「私だって、湊くんや咲ちゃんや智くんが黙ったまま居なくなって、もう二度と会えないんだって分かったら怒るよ?」
「分かった。じゃあそういう時は、ちゃんとさよならって言ってから行くから」
「それはそれで、悲しいんだけど……」
同時に到着のメロディが流れて、電車は広井駅のホームに滑り込んだ。先二つの駅とは違って、ホームの数も人の数も多い。
「俺も下りるよ」
「でも湊くんは次の駅だし……ここからは一人でも帰れるよ」
「まだ雨降ってるから。定期もあるから気にしないで」
降り続く雨を心配する湊は、開いた扉へとみさぎを促した。
駅に人がたくさんいるお陰で、みさぎの気持ちは落ち着いている。けれど、彼の言葉に甘えてその横へ並んだ。
「ありがとう、湊くん」
夕方にはまだ早い駅は雨の匂いに包まれていた。
家まで彼に送ってもらうのは申し訳ないなと思いながら改札まで歩いて、みさぎはその奥に意外な人物を見つける。
「お兄ちゃん」
彼をそう呼ぶと、隣で湊がギクリと肩を震わせて
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