11 そしてお兄ちゃん
みさぎの声に振り向いたのは、兄の
大学生の彼はあと少し夏休みが残っている。片手に傘を二本ぶら下げて、どうやら迎えに来てくれたらしい。
「お帰り」と手を振る蓮は、みさぎの横に
誰だろうと探る蓮の視線に、湊は改札横の柵越しに向き合って「こんにちは」と挨拶する。
「同じクラスの
雨が降り出してすぐ、蓮から大丈夫かとメールが来ていた。もう帰るからと返したきりだったが、中途半端な返事のせいで心配させてしまったらしい。
蓮は
「雨降ったから泣いてるんだろうと思ったけど、良かったな。わざわざ送ってもらってすみません」
「気にしないで下さい。じゃあ、俺はここで。
「うん、ありがとう湊くん」
「うちの妹、こんなんですけど。よろしくお願いします」
「こんなって何よ」
みささぎが
そんな二人の様子に、湊が不思議そうな顔をした。
「仲良いんですね」
「まぁ、兄妹だしね」
「そう……ですね。わかりました。じゃあまた、雨が降ったら送ってきます」
「よろしくな」
満足そうな蓮の笑顔とみさぎの「またね」を背に、湊はホームの奥へと戻って行った。
☆
「俺来たのマズかった?」
広井駅からみさぎの自宅までは徒歩で十分ほどだ。車通りの少ない路地を選んで、みさぎと蓮は傘を片手に並んで歩いた。
「どうして?」
「だってお前、彼氏に家まで送ってもらうつもりだったんだろ?」
「彼氏って。湊くんはそういうのじゃないよ」
動揺するみさぎに、蓮は「あぁそうか」と一人で納得して、ニヤリと口角を上げた。
「まだ告白してないってことか。いじらしいな」
「だから、そういうのじゃ……」
「馬鹿か、お前は」
必死に否定する妹を、蓮はバッサリと切り捨てる。
「お前、アイツの前で雨が怖いって言ったんだろ? それで家まで送ってくれようとするなんて、向こうは好きってことなんじゃないの?」
いつもながらに兄は単純だ、とみさぎは思う。その言葉がまかり通るなら、送ってくれると言った咲や智もそうなってしまう。
ムスリと
「まぁ別に、彼氏作るのくらいいいんじゃないの? 雨が苦手なのも全然治らないしな。誰かと一緒だと落ち着くみたいだし、今日は帰ったらゲームでもしようぜ」
「うん。お兄ちゃんには負けないからね」
蓮の言葉がみさぎの胸に妙に刺さった。
確かに誰かといると雨に対する抵抗感は薄れる気がする。
「何でなのかな……」
けれどみさぎがいくら考えたところで、その答えが出ることはなかった。
☆
シナモンは戦闘の前に渡される
あれを食べるとしばらくの間空腹を紛らわすことができるから、ターメイヤの兵なら好んで食べる味だが、リーナはいつも嫌いだと言っていた。
「貴方まだ帰らないの?」
結局咲は店に戻って、かれこれ一時間が経過した。他の生徒もいなくなり、中は貸し切り状態だ。
「二個目からはちゃんとお金払ってもらうわよ」
「冗談じゃない。これは
「騙してなんかいないわよ。貴方が気付かなかっただけじゃない。鈍感なだけでしょ? ラルにあんなに
「聞きすぎたとは思ってるよ。けどさ、昔の記憶なんて十七年も前の事だから、僕だって怪しいんだよ。今のうちに記憶の
咲は
「それで、記憶は合ってた?」
「まぁ大体ね。それより――」
テーブルに乗りそうなほどの絢の巨乳を
「アンタは昔、時間移動はできないって言ってたよね? なのにどうして僕たちより年上なんだ? 僕は広井町に生まれて、五年前この町に引っ越して来た。アンタはいつからここに居るんだよ」
「そんなの企業秘密よ」
絢はすました顔で、ツンと
「何だよ、企業って」
咲は諦めきれないまま、窓の向こうの止まない雨を見つめた。
みさぎはもう家に着いただろうか。一緒に帰ったのが湊だという事が不服だけれど、それでも無事であればいいと思ってしまう。
「アンタはどうしてリーナが雨を苦手か知ってるか?」
「さぁ」
「あいつが最後にハロンと戦った時、こんな雨が降ってたんだよ。記憶なんてない筈なのに、アイツ……」
胸が苦しくなって、それを紛らわせるように咲はシナモンロールをかじる。
絢は「やめなさい」と注意した。
「そんなに食べたら太るわよ。貴方の言う世の中の男ども全てから見向きもしてもらえなくなるでしょ」
「今はいいんだよ」
「相変わらずリーナの事ばっかりなのね、お兄ちゃんは」
「黙れよ、ルーシャ」
咲は絢をそう呼んで、ぷいと顔を
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