4 ソフトクリームを食べてから本題に入りたい
駅前の大きな平屋建ての一角に『田中商店』はある。
「あぁ俺この間、編入試験で来た時に、ここでアイス食ったよ」
ガラス扉の上に
智の家は、みさぎたちとは反対路線で
「へぇ、そうだったんだぁ」と何やら可愛い子ぶる咲に不信感を抱く湊が、みさぎにこっそり耳打ちした。
「アイツ何
智から過去を聞き出すことは、もしかしたら湊にとって都合の悪い事なのかもしれない。
「えっと……」とみさぎが言葉を
咲の提案でほぼ強制的に決行された歓迎会だが、智は「やったぁ」と喜んでくれた。
店内はそれほど広くなく、奥に並んだ二つの棚に雑貨や食品がパンパンに入っていて、手前にはレジカウンターと花柄模様のビニールクロスが掛けられたテーブル席が三つあった。
スピーカーから流れてくるFMラジオは、軽い音楽に乗せて人生相談の真っ最中だ。
一つだけ空いていた隅のテーブルに咲の指示で男女向かい合って座ると、彼女が店に入ってすぐに注文した四つのクリームソーダが運ばれてきた。
「失礼しまぁす」
トレイを片手に笑顔全開でやってきた女性に、智が
下着ラインギリギリまでの短いホットパンツをはいた彼女は、
上につけたエプロンが豊満な胸を強調させるが、智は咲の視線に気付いてサッと目を逸らす。
「全く、男ってのは好きなんだから」
さっきまで可愛い女子を装っていた咲が、すっかり素に戻ってニヤニヤと笑みを浮かべている。
「しょうがないだろ」と開き直る智の横で、湊は自分への飛び火を警戒して面倒そうにそっぽを向いた。
「この間来た時は、別の店員さんだったんだよ」
「あぁ、近所の人よ。私が忙しい時はアルバイトしてもらってるの」
店員の女性は、にっこりと笑った。
「
「えぇ。部活動もないから式にだけ出て戻ってきたの。彼、転入生なんですって?」
「は、はい」
「絢さんはここに住んでて、私たちの先生もしてるんだよ」
緊張を見せる智に、みさぎは目の前に置かれたクリームソーダに気を奪われつつ説明する。
「一年生の授業もあるから、その時はよろしくね。今日はゆっくりしていって」
くるりと
「ようこそ、白樺高校一年クラスへ」
「ようこそ
「美味しぃい」
一ヶ月ぶりの味に満足するみさぎにつられて、智も表情を緩める。
「可愛いね、みさぎちゃん。クリームソーダそんなに好きなの? あと、俺の事は智でいいから」
「う、うん。大好きだよ、智くん」
「智くぅん」
ちょっと恥ずかしそうに言うみさぎの横から、体をくねらせた咲が甘えた声で彼を呼んだ。
彼女なりに可愛く言っているつもりのようだが、いつもとのギャップに
「お前それやめろよ。恥ずかしくないのか?」
「何だよ、湊。男はこういうのが好きなんだろう?」
「智のこと誘ってるのかってことだよ」
「怒ってるの? もしかして
「絶対ない」
眉を寄せてはっきりと切り捨てる湊に、咲は強気に胸を張った。
「まぁいいよ。私は世の中の男ども全てを誘っているんだからな」
自信満々の彼女の話が、まんざらでもないことをみさぎは知っている。
細くて美人で背の高い咲は、町を歩いていると他校の男子から声を掛けられることも少なくなかった。彼女と言葉を交わしたことのない、初対面の男子に限るけれど。
「あっはは。咲ちゃんって面白いね」
「これ
「一応誉め言葉だと思っておくよ。けど残念ながら、私はみさぎにしか興味ないんだ」
「きゃあ」
突然咲がみさぎの右腕に両手を絡めた。すくったソフトクリームが落ちそうになって、みさぎは慌ててスプーンを
「もう咲ちゃん、びっくりさせないで」
「仲良いね、二人とも」
「そりゃあ、みさぎは私と運命で繋がってるからね」
「えっ、そうなの?」
そんなの初耳だと驚くみさぎを無視して、咲は続ける。
「そちらの二人も、相当仲がおよろしいようで」
いよいよだという空気を感じて、みさぎはスプーンを握る手に力を込めた。予告はしていなかったが、智は何となく予想していたらしい。
湊は「はぁ?」と困惑顔を浮かべている。
「俺に何が聞きたいの? 咲ちゃんは」
「とりあえず、二人がオトモダチだった時の話をしてもらおうか」
咲はソフトクリームの部分をバクバクっと食べ終えて、智へ意味深な笑顔を向ける。
「いいよ」と
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