第4話 妹、襲来


 ──ピピピピ。

 カーテンの隙間から心地よい朝の日差しが差し込む頃。スマホのアラーム音が頭のすぐ近くで鳴り響く。


「…………あと、5分……」


 そう言ってスマホのアラームを一旦止める。……そしてきっちり5分後、再び同じようにアラームが鳴り、また俺はアラームを止める。

 それを何回か繰り返し、


「そろそろ起きなきゃな……」


 まだ少し重い体を起こす。

 時刻を見れば朝の七時。いつもと変わらぬ時間だ。

 まぁ止めた回数はいつもと同じだったから当たり前といえば当たり前なのだが……。

 そんなことを思いながら朝6時30分から7時30分までのあいだ、5分おきに設定されている時計のアプリを閉じる。

 俺は朝が物凄く弱い。別につい先日まで春休みだったから生活リズムが狂ってしまっていたというわけではない。

 実況をしていた頃、特に去年の4月までのあいだ……俺ががむしゃらに頑張っていた時の話だ。自分で決めたことなのに、それが達成しようと毎日狂ったように動画作りに励んでいた。

 もちろん学校には行っていた。昼は学校、夜に実況といった感じに。……ここまで言えば察しのいい人ならわかると思うが、夜に実況の部分でやりすぎたのだ。

 3時や4時まで編集をしていたことなんてよくある話だったのだ。

 もちろんそんな日々を過ごしていれば悪い習慣がついてしまうのは必然。俺の体内時計の昼夜は狂い、本来であれば一度寝れば朝までぐっすりのはずが夜の時間に寝た場合のみ2時間くらいで起きてしまい、逆に朝や昼間に寝るとそのまま6時間とかぐっすり……なんてことになっていた。

 一度それで遅刻をしたことをきっかけにこうして目覚ましをいくつも置くようにしたのだ。

 では昨日、俺は何時に寝たのか。……もちろん4時だ。

 しかし今日は土曜日で学校は休日、アルバイトとかも休みなので、俺はゆっくり寝ていればと思うかもしれないが、こういうのは積み重ねが大切なのだ。最近は30分で起きられるようになったのに、ここで気を抜いたら昔みたいに7時30分ギリギリになってしまうかもしれない。

 ……と、そんな俺の睡眠事情などどうでもよくて、


「…………夢じゃ、ないんだな」


 ラインを開き、俺の最高に可愛い後輩であり、最推しのブイチューバーの天野かいりでもある、ひかりさんとのチャットを見返す。

 そこには深夜0時に更新された『それでは先輩、おやすみなさい』と彼女からのメッセージ。そのままトークを遡ると現れる深夜に行われた会議。

 もちろんその内容は天野かいりについてだ。あとは俺とひかりさんが今の天野かいりについて話していたり、俺をどういう風に入り込ませるか、など。



 顔を洗い、サッパリしたところで外からなにか声が聞こえてきた。


『押したいけど……。でもまだ早い、かな。土曜日ですし、まだ寝てますよね。でもでも、これ食べて欲しいですし……。うぅ……』


 何かを悩んでいるようだった。

 それにこの声はまちがえるはずもない、ひかりさんだ。

 ……ここは俺が開けてあげるべきなのか?

 そうとも思ったものの、ドアノブに手をかけようとしたときに手が止まる。


「…………」


 おい、どうした俺? 早く開けないか?

 ……よくよく考えろ、もしこれで俺じゃない人のところにいて、それなのに勘違い野郎がウッキウキで扉を開けながら声をかける……。うーん、キツい。

 もしもひかりさんから白い目で見られるようなことがあったら俺はその時点で、死ぬ覚悟を決められる。

 …………それにしても独り言が長いな。こうして自問自答している間もずっとぶつぶつ言ってるし。


『というより、出会ってまだ一週間くらいなのに、いきなり家に押しかけて手料理って……うぅ、やっぱり引いちゃいますよね……』


 ……ん? 今ひかりさんの手料理という聞き逃せない単語が聞こえてきた気がする。

 というかひかりさんって独り言だと結構饒舌になるんだね、いつもオドオドしてる喋り方だったから少し驚いた。

 俺はその場で少し聞き耳を立ててみることに。


『でもでも、私本当に嬉しかったし、感謝の気持ちを伝えたいし……。でも私が先輩に出来ることなんてこれくらいしか……。えっ、身体? だ、だめれしゅっ! あぅ……』


「──ッ!!?」


 か、かわ……! いい……っ!!

 余程テンパっているのか、最後の最後で噛んでしまったらしい。痛かったのか少し悶絶しているように聞こえる。

 しかも今ので用があるのは俺だと確定した!

 それにしてもまさかひかりさんの口からそのような言葉が出てくることにも意外だった。

 ……いや、そう言えば天野かいりって美少女ゲームもリスナー企画みたいなので、触れたことがあったっけ。

 体験版だけなら……って、生放送でやることになったけど、その内容に耐えられなかったらしく開始早々に切ってしまわれたけど。……タイトルは確か、えろげーみたいな街に住んでる乙女ぼくはどうすればいいですか? で通称えろぼくとか呼ばれているものだったはず。

 その内容については一言で済ますなら下ネタの概念を壊される作品、ということだけ。俺もその手のゲームはやる。はつこいさくらやエイトとか有名な作品ばかりだけど。

 しかしそんなエロとかに耐性があった俺でさえ体験版の時点で思考停止していたくらいのものだった。……一応体験版は全て完走したのだが、思ったことは、この作品はいずれ伝説になる。ということ。

 ……なのでそんな作品をリスナーの罠によって少しでもやらされたことのあるひかりさんならその手の知識があってもおかしくはないと思うけど……。


『…………』


 おや? 声が突然聞こえなくなったけど、やっと押す覚悟が出来たのかな?

 そう思った俺はすぐに開けられるように鍵を音の出ないようこっそり開けて、ドアノブの手をかける。

 こういうのは初めが肝心だからね。直前に最低限の身支度を整えておいてよかったよ。それに俺はパンイチで寝るようなタイプでもないし、しっかりとジャージも着ている。

 あとはチャイムが鳴るのを待つだけ。……あれ、でもチャイムが鳴ってすぐに出たら待機してたとか思われない? それって気持ち悪くない? 多分俺だったらチャイム鳴らしてすぐにひかりさんが出てきて「実は気付いてたけど、先輩が鳴らしてくれるのを待ってました♪」なんて無邪気な笑顔を向けられつつ言われたら……。

 ──そのまま手を取って告白して即振られる自信があるっ!!

 と、なるとワンテンポ置いてから開けるのが最適なのか? それとも走って来ましたみたいなアピールするために少しここで足踏みしてみる?

 ここに来て何故かこちらがテンパってしまっていた。

 数分にも渡りどうしようどうしようとなっていたのだが、それでもチャイムの鳴る気配はない。

 流石にそこまでなると冷静さが出てくるもので、そっと覗き穴から外の様子を見てみると……。


『……やっぱり出直そう』


 小さくてはっきりと聞き取れなかったけれど、それに近いような言葉を残しそのまま踵を返そうとしているひかりさんの姿が。


「待った待った!」

「ふぇっ!? せ、先輩っ!?」


 気がつけば俺は扉を開け、彼女を呼び止めていた。




「…………」

「…………」


 リビングに通して、テーブルを挟んで座り10分。招き入れたのはいいのだが、お互いに何を話せばいいのかわからなくなったように無言のままときおり俺がいれたカフェオレを飲むばかり。

 テーブルの上にはひかりさんが持ってきてくれた美味しそうなフレンチトーストがそれぞれの前に二枚ずつ置かれているのだが、なんというか今はまだ食べられそうにない。

 そもそも朝から誰かと一緒にご飯を食べるなんてこと自体がかなり久しぶりな気がするし、なんならそれが家族以外の女の子ともなれば初めてだ。

 とはいえ、流石にこの空気が続くのはしんどい。なにより天使であるひかりさんに暗い顔をさせてしまっているのが心にグサグサくる。

 話題作りのために……ってのもどうなのかと思うが、今はそうも言ってられないので目の前にあるひかりさんの手作りフレンチトーストをいただくことにする。

 小さく手を合わせ「いただきます」と言うと、それに気付いたひかりさんが不安そうにこちらを見つめていた。

 俺は早速フレンチトーストを一口かじる。

 基本的にお米派で、特に朝なんかは滅多にこういったものは食べないのだが……。


「……美味しい。めちゃくちゃ美味しい!」

「ほ、本当、ですか?」

「うん! 本当に美味しいよ!」


 そのあまりの美味しさに俺は美味しい美味しいと言うだけのマシーンと化していた。

 実際それくらい美味しかった。

 この噛むとじゅわっとパンから旨味が染み出てきて、そのうえ噛めば噛むほどどんどん美味しさが増していく。

 こんな美味しいものを話題作りのために食べ始めたのを申し訳なく思ってしまう。

 だけど、狙い通りこれがきっかけに、


「こんなに朝早くから、ご迷惑かなと思ったんですが、それでも作って良かったです」

「迷惑だなんてとんでもない。毎日でも食べたいくらいだよ」

「ま、毎日、ですか……?」

「あっ、毎日とかそっちの方が迷惑だよね。ひかりさんにはひかりさんの予定とかあるし。でもそれくらい美味しいよ」

「ありがとぅございます……。……私も、そう言って頂けるなら、毎日作りたいです……」

「ん? 何か言った?」

「い、いえっ! 誰かと一緒に朝ごはんを食べるのは久しぶりだなって」

「ひかりさんも?」

「はい。元々一人暮らしに憧れていたってのもありますが、実家にいても両親は海外で仕事をしているのでそれならって……。その、動画の関係もあったので……」


 なるほど。確かに動画の作成しているところとかって見られたくないもんな。

 ……ひかりさんの場合は実況しながら撮るわけだし。……って、待てよ。


「ねぇひかりさん。今ふと気になったことがあるんだけど」

「はい、なんでしょうか?」

「天野かいりってテンションめっちゃ高いけど、あれってひかりさんの素なの?」

「……うっ」


 あっ、これ聞いてはダメなやつだ。

 ここの界隈を長く離れていたから忘れていた。この手の話題は人によって違うと。

 それをネタにしているような人もいれば、結構ガチで気にしているような人もいるから、この手の話題のときは気をつける必要があることを。

 そしてひかりさんの場合はまぁ言うまでもなく後者だなこれは。


「引いちゃい、ますよね。動画の中ではあんなにテンション高くて陽キャみたいな感じなのに、実際はこんな地味で……」

「い、いや、そんなことはないよ。確かに天野かいりのファンではあるけど、ひかりさんはひかりさんの良いところがあるし、俺はどっちも好きだから」

「ふぇ……す、好き、ですか……?」

「うん。こんなにも天使みたいに可愛くて、料理も美味しい女の子なんて好きにならない人のが少ないんじゃないかな?」

「うぅ、先輩わざとですか?」

「わざと?」


 見れば顔を耳まで真っ赤に染めてぷるぷると震えていた。

 ……俺、なにか怒らせるようなことを言ってしまったのか?

 もしこれがイケメンな陽キャであれば、すぐに原因とかがわかるのだろうか……。この歳にもなって家族以外の女性関係がほとんどない俺には高い壁だ。


「とにかく俺はひかりさんのこと友達として好きだと思ってるから、そんなに気にしなくても……」

「……あぁ」

「……?」


 不意にひかりさんの顔色が元の白色に戻る。

 そしてその目は全てを悟ったような目をしていた。


「えっと、ひかり、さん?」

「いえ、なんでもないです。……ぅぅ、完全に勘違いしてたなんて恥ずかしくて言えません……」

「…………?」


 なんだか、また一人で悶えているようだけど、声が小さすぎて本当に聞き取れない。

 かと言って俺には女の子に積極的に近付く勇気などない。せいぜい初めてであった時の距離で精一杯なのだ。

 と、その時だ。スマホからラインの着信音が。内容は至ってシンプルに『来ちゃった☆』とだけ。

 そして読み終えると同時に閉めたはずの玄関の扉が開かれる。こんなことが出来るのは二人しかいないうえ、ラインでこんなふざけたメッセージを送ってくる人物ともなれば一人しかいない。

 案の定その人物は元気よく俺たちのいるリビングへと駆け込み、


「おっはよーおにい! 可愛い可愛いわたしが、朝の弱いお兄のために来てあげたゾ♪ ──って、お兄が知らない女の子を家に招きいれてる!?」

「…………」

「……何しに来たんだよ……」


 俺とひかりさんを足して3倍くらい元気な黒髪の美少女が入ってきたのだ。

 いきなりの事態にひかりさんは固まってしまっていた事実俺もそうだ。

 だがそれはそれとして、かなり面倒くさいことになった。入ってきたのは立華紫苑たちばなしおん。俺の一つ下の妹だ。

 身長はひかりさんと余り変わらないのだが、圧倒的に飛び出ている二つの山がある。

 紫苑は時折こうやって断りもなく人の家に突撃してくるのだが、よりにもよって今日とは本当に運が悪い……。


「ここに来る時は連絡しろってあれほど……」

「しましたー! 昨日『明日行くね☆』って入れました! いつになっても既読つかなかったからわざわざ様子を見に来たってのに」

「……」


 言われてスマホを見てみる。紫苑とのトーク履歴を見ると、確かに昨日……丁度ひかりさんの家のチャイムを押すか押さないかで悩んでいた頃に紫苑が言ったまんまのメッセージが入っていた。


「……入ってましたね、すみません」

「でしょ!? わたし悪くないよね!? お兄がわたしからのメッセージ無視するなんて相当なことがあったと思ったけど……いやはやまさか彼女作って女の子を連れ込んでいるとは。陰キャ決め込んでると思ってたからわたしびっくりだよ」

「か、彼女……?」

「え、違うの?」

「ちっ、違います違います! 私が先輩の彼女だなんて……」

「つまりお兄は無関係の女の子を部屋に連れ込んでるの? た、大変だヘンタイだ……。通報しなきゃ……」

「……なんで? というかちょっと待て!」


 スマホを片手にガチで通報しようとしている妹を制止する。


「話してお兄! わたしはお兄のために通報しないといけないのっ! わたしの大好きな根暗で陰キャでどうしようもないお兄を取り戻すために!!」

「俺ってそんなにマイナスなイメージ強いかな? ひかりさんからも何か言ってよ」

「えっ、あっ、わ、私、ですか?」


 まさか自分に振られるなんて思っていたかったのか、優雅にお茶を飲んでいた彼女の肩がビクリと震える。

 そして少し考え、


「先輩は……や、優しい人ですよ。こんな私にも優しくしてくれたりか、可愛いって言ってくれるので……」

「良かったねお兄、かなり良い評価を貰えて。ま、あえて根暗とか陰キャの部分に触れなかった優しさが垣間見えたけど」

「ねぇなんでお前は俺に対してそんなに当たりが強いの? しまいには泣くぞ? 泣いちゃうぞ? 俺の泣きはそんじゃそこらの泣きとはわけが違うんだぞ?」

「泣けるもんなら泣いてみてよ。もちりん犬の鳴き真似で♪」

「わーんわんわん!」

「うわ本当にやったよこのお兄……。これは流石のわたしでもドン引きだなぁ……」

「で、でも頑張ってる先輩は可愛い、です」

「えっとそこまで無理してお兄を褒めなくても大丈夫、だよ? えっと……名前聞いてなかった……」

「あっ、そう言えば……すみません」


 そこでお互いに自己紹介すらまだということに気がついた。

 すぐさまひかりさんは紫苑の正面になるように向き直る。


「わた、私は、佐倉ひかりと言います。先輩と同じ学校で、今年から一年生になります」

「ご、ご丁寧にどうも。わたしは立華紫苑です。お兄の妹で、今年からお兄と同じ学校の一年生になります。……でも、あれ?」


 そこで紫苑は首を傾げる。


「……佐倉さんって何組? わたしは二組だけど」

「私は一組、です。……でも風邪をひいてしまったりして、まだ学校には一日しか……」

「そ、そうだったんだ。ごめんね」

「う、ううん。風邪をひいちゃったのは私の責任だから……。でもお陰で先輩とこうして知り合えたので、えへへ」

「…………ねぇお兄」

「……なんだ紫苑」

「佐倉さんめっちゃ可愛くない?」

「わかる。天使だよな」

「くぅ、お兄にとって二人目の天使がついに現れちゃったのかぁ……」

「……は?」

「え、だってわたしと佐倉さん。ほら二人」


 言いながら指を二本立てて強調してくる。


「すまんな、俺にとって天使はひかりさんだけなんだ」


 なので俺は片方の指をそっと閉じさせ、ひかりさんの方へと視線を送る。


「第一、お前とひかりさんとじゃ天と地ほどの差がある。わかるか、お前は人間でひかりさんは天使なんだ。天使と人間を同列に扱うな」

「お兄、最近はブイチューバーとかにハマってたけど、そこら辺の区別はついてると思ったんだけどな……。いい? ひかりさんだって女の子なの、トイレだって行くし、鼻だってほじるよ」

「天使は鼻はほじらない! トイレは行くかもだけど!」

「こ、今度から頑張って鼻息だけで済ませられるようにします……」

「…………」

「お兄聞きましたかぁ? 天使だってそれくらいのことはするんですよぉ!」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべる紫苑。


「それでもひかりさんが天使であることは変わらない!」

「なんで今回に限ってこのお兄はこんなにも頑固なんだ……。わたしだって最近お兄に可愛いって言って貰えてないのに」


 我が妹はわかりやすいくらい頬を膨らませていた。

 そんな妹の隣でぷるぷると体を震えさせている天使が一人。しかも顔を真っ青にして。


「ごめんなさいごめんなさい、私のせいで二人の中が険悪に……」

「えっと、なんかこっちこそごめんね? わたしとお兄っていつもこうだから」

「そ、そうなんですか?」


 少し涙目な状態で、上目遣い気味に確認をとるひかりさん。

 え、なにこれ、めっちゃ可愛いんだけど??

 とりあえずでもいいから何かアクションを起こそうとするものの、「……うん」と、軽く頷くことしか出来ない。

 だけどそれでも十分だったようで、「よかったぁ……」と心底ほっとしたようだった。




「──と、言うことなんだ」


 それから数十分、俺はひかりさんと出会ってからこうなるまでの経緯を軽く説明した。もちろん彼女が俺の推しであることや、俺がまた動画を作ろうと考えていることも含めて。

 話を終えると紫苑はわざとらしくため息を吐く。


「……はぁ、なるほどねぇ。ま、確かにお兄に見ず知らずの女の子を連れ込む度胸なんてないよね」


 そしてすぐに笑顔になり、


「でもわたしとしてはお兄がまたやる気を出してくれて嬉しいよ。……でも、無理だけはしないでね」

「……わかってる。大丈夫だよ」

「うん、信じてる。……さてと」


 紫苑は立ち上がり、そのまま玄関の方へと歩き出す。


「あれ、紫苑もう行くの?」

「うん、わたしはお兄が元気か見に来ただけだし。まぁ意外なことはあったけど……。それでもわたしはお兄が幸せならそれでいいから」

「…………ごめん」

「気にしないで。それじゃあばいばい。佐倉さんもまた学園で!」

「は、はいっ」


 そう言って紫苑は帰ると、部屋の中は嵐が過ぎ去った直後のように静かになっていた。

 さきのような緊張感もない。

 かと言ってこのまま何もせずっていうのもあれなので……。


「えっと……。とりあえずこれからどうするかだけ、話しておこうか」

「そ、そうですねっ」


 ……こうして、話し合った結果。ひとまずの目標をチャンネル登録者数5000人ということになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋チューブ! ~俺の推しのVが可愛い後輩だった件~ 空恋 幼香 @sora_1204

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ