敗者復活戦 vs霧島龍牙さん(黒メガネ様)

 ――気付いた時には、先程もいた平原。

 フィールドにいるのはディアンとシルヴィア、そしてもう一人。何かを埋め込まれた気配のする剣を携えた男だ。金色の瞳を細め、シルヴィアはそんな彼を見つめる。


「……この人が、次の相手みたいだね」

「どんな奴でも関係ない。行くぞ、シルヴィア!」


 言い放ち、ディアンは地を蹴った。大鎌を構え、龍牙に肉薄する。シルヴィアも片手に回復魔法をスタンバイしながら彼に追随する。対し、龍牙はかすかに目を見開き――


「時間が惜しい。一撃で決めてやる」


 即席で絶対零度の術を改変、フィールド全体が凄まじい冷気に包まれる。凍りつきかねないほどの冷気に思わず足を止めるディアン、その手をシルヴィアはぐっと握った。


「っ、これは……ディアン!」

「悪い!」


 シルヴィアが送ったのは回復魔法。絶対零度の凍傷と回復魔法を拮抗させ、一時的に安全を保つ戦略だ。身体を冒す霜が消えてゆくのを感じながら、ディアンは地を蹴る。


「……悪いが、さっさと決めさせてもらう」

「っ……こいつら、絶対零度の領域を平然と……!? ちぃっ……油断できないな。なら、これでどうだッ!」


 片手に鎌を構え、ディアンは龍牙に肉薄する。しかしその鎌は刀で弾かれ、同時にさらに強い冷気が彼を襲った。それは龍牙の身体から溢れ、二人の身体を壊そうと襲い掛かる。思わず足がすくみ、それでもディアンは声を上げた。


「ぐっ……シルヴィア!」

「わかってるッ!」


 シルヴィアはディアンの手を握る手に力を籠め、回復魔法の出力を上げる。同時に身体から剥がれてゆく霜、それから視線を外し、シルヴィアは不敵に笑った。


「『天使』の力……舐めないでよね……!」

「あ? ……天使、だと……?」


 一瞬龍牙の魔力が恐ろしいまでに膨らみ、すぐに縮んでゆく。思わず目を細めるシルヴィアには知る由もないが――それは龍牙の最も踏み抜いてはならない地雷。その瞳が揺れる。怒りに震える声が平原に響く。


「……気が変わった。テメェは……テメェだけは、絶望のどん底に沈めて殺す!」

「させるかッ!」


 強烈な殺気を鋭く感じ取り、ディアンが鎌に黒い輝きを纏わせる。それは龍牙の刀を『滅殺』しようと振り下ろされ――しかし、相手はドラムグード王国最強の一角。


「異質な力? 龍魔刀は破壊不可能のはずだが……警戒はしておくか」


 鎌を弾いて距離を取り、龍牙は牽制もこめて数発のビームを放つ。その攻撃が一発ディアンの脚に当たり、しかし繋いだままの手から送られる回復魔法ですぐに治癒される。


「大丈夫、ディアン? いくよ!」

「ああ!」


 シルヴィアが徒手格闘の構えを取り、二人は息の合った動作で龍牙に肉薄する。しかし、黙って攻撃を受けるような龍牙ではない。


「面白い……細胞の一欠片に至るまですべて凍らせて破壊してやるよ!」


 絶対零度を本来の威力――今までとは比べ物にならないほどの高威力に戻し、白銀の嵐を吹き荒れさせる。何もかもを凍らせる死の乱舞を間一髪で回避し、距離を取って凍傷を癒していく。


「埒が明かねえ……


 ギンッ――と音を立て、ディアンの瞳が黄色から赤に変化する。それは、先の戦いでも使用した「邪眼」。刹那、白銀の嵐は止み、龍牙も嘘のように動きを止める。


「っ!? 停滞の魔眼!? ……いや、違う。何だこれは、何しやがった!?」

「……これで終わりだ。行くぞ!」


 ディアンの口元が酷薄な笑みで彩られる。彼は再び彼に肉薄し、鎌を振り上げ――その鎌が黒い輝きを纏う。あらゆるものを抹消する滅びの魔力、それは龍牙すらも消し去ってしまう――


 ――はずだった。


「……体が動けないだけ。なら、これはどうだ?」


 至近距離で龍牙と視線が合う。その瞳に悍ましい紋章が浮かび、それはディアンの赤い瞳を覗き込んでけたけたと笑った。刹那、ディアンの中で何かが弾けるような感覚。それは死絶の魔眼――視界に入った対象を、あらゆる防御も回復も無視して即死させる技。


「――ッ!?」


 視線が合ってしまったディアンの手から、高い音を立てて鎌が落ちる。そのまま倒れ伏す彼にシルヴィアは駆け寄り、その手を両手で握った。


「ディアン、大丈夫、しっかりして! ……偽りの命神王カレンドゥラ様の名において、我、ここに相棒ディアンを――」


 涙すら浮かぶ瞳でディアンの手を握りしめ、蘇生魔法を詠唱するけれど……しかし、ディアンの手はただただ冷たくなっていくだけで。思わず身をすくませ、彼の手を取り落とす。同時、彼女はかすかに震えだし……最後に、諦めたような声が、小さく響いた。


「これは……駄目だね」


 膝を突き、そのままうつ伏せに倒れるシルヴィア……意識が潮騒のように引いていく中、呆然としたような龍牙の声だけが響いた。


「……決着か? 運命共同体とは珍しい……」


 ――そして、舞台は待機スペースへと戻っていく。

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最強キャラドリームデスマッチ! 東美桜 @Aspel-Girl

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