第26話 葵と俺


 俺と葵が行った先は――隣りの市にあるショッピングモール。


 買物をするには、それなりのテナントが入っているだけに過ぎないが……大型のゲームセンターとか、スケートリンクとかが併設されているから。遊びに行く場所としては、結構人気だった。


 二人でウインド―ショッピングをして――服とか雑貨とか眺めながら、午前中を過ごして。昼はピザが旨いという店に入って、その味を堪能した。


 それから午後も、適当に時間を潰してから……このショッピングモールの売りである施設に向かう。


 プラネタリウム――恋人たちにとっては、ロマンティックな場所なんだろうが。俺と葵は幼馴染だから……そんな雰囲気になる筈もなったが……


「ねえ、颯太そうた……小学生の頃、ここに一緒に来た事覚えてる?」


 ちょっと早く着き過ぎたので――プラネタリウムが始まるまで十五分。俺と葵はお喋りをしながら過ごした。


「ああ……忘れる筈がないだろ。だって、あのとき……葵は大泣きしてたからさ」


 俺の家族と葵の家族は仲が良くて――小学生の頃までは、よく一緒に出掛けていた。


 その頃も普段の葵は、ニコニコと笑う女の子だったが……六年生のときに、最後に一緒にショッピングモールに来た日は――大泣きしていた。


 その原因は――偶然一緒に居合わせたクラスメイト。俺と葵が一緒な事を散々揶揄からかわれて……俺は無視していたけど。葵はどういう訳か、クライメイトたちに立ち向かった。


「あたしと颯太は……そんなんじゃないけど。颯太を馬鹿にする奴は、私が絶対許さないからね!」


 葵は揶揄う男子を捕まえて、ボコボコにしたが――そのせいで葵のお母さんは、相手の親に平誤りする事になった。


「ご、ごめんなさい……お母さん! でも……悪いのはあの子たちだから!」


 泣き叫ぶ葵に――葵のお母さんは、何処までも優しかった。


「うん。解ってるわよ……葵は悪くない。それどころか……颯太君を庇ったんだから、えらいわよ!」


「ああ……そうだよ、葵。その……何だ。葵が僕のために怒ってくれて……僕も嬉しかったから」


 今思えば――俺が一番最後に、素直な気持ちを葵に伝えたのは、そのときだった。


「う、うん。颯太……あたしね……颯太が嫌な事は、あたしも嫌だから!」


 それから中学は別々になって――両親が死んでから、俺は葵の事を拒絶してしまったけど……今ならば言える。


「あのさ、葵……あのときも。その後も……俺の事を気にしてくれて……ありがとうな」


 もっと、昔に言えば良かった――葵はずっと俺の傍にいてくれていたのに。俺は葵に甘えて……拒絶してしまった事を後悔している。


「ううん……良いよ。颯太が物凄く辛っくて、そうする・・・・しかなかった事に……気づけなくてゴメン」


 なんで、葵が謝るんだよと。俺は思っていたが……謝らないと自分が許せないって気持ちは、俺にも解った。


 せっかく一緒出掛けたのに――俺も葵も謝りっぱなしで。お互い涙目なのが……何故か可笑しくて、二人で顔を見合わせて笑う。


「なあ、葵……今さら、昔の事を後悔しても始まらないから。これから……一緒に笑えるように、俺は葵との時間を大切にしたいと思ってるよ」


 俺は正直な気持ちを――葵に伝えたのだけれど。


「ふーん……それって私が篠崎さんよりも、颯太にとって大切だって事?」


 葵が真剣な目で見つめるから――俺も正直に応える事にする。


「俺にとって……桜奈さくなは特別な存在なんだ。だから……ごめん。葵の方が大切とか……そんな嘘は言えない」


 空気を読んで――葵が喜ぶ台詞を吐くべきなんだろうが。俺にとっては……蒼も大切だから、嘘何て言えない。


「ホント……颯太らしいね。私だって……解ってるよ。篠崎さん優しいから……颯太に酷い事をした私の事も、許してくれるんだよね」


 両親の死という現実を――受止められなくて、壊れてしまった俺を。葵は理解できなかッと自分を責めている。だけど……


「そんな事ない……いや、桜奈が優しいのは本当だけど。葵だって……俺には優しいから。俺の方こそ、ずっと無視するなんて酷い事をしたのに……こうやって、一緒に出掛けてくれるだろう?」


 葵と一緒に出掛けるだなんて――ほんの一ヶ月前にも、全然想像出来なかった。


 葵に興味がなくなったとか、そんな事じゃなくて……今ならば理解できる。俺は葵に対する罪悪感を受け止める事が出来なくて……葵と一緒に居る未来を放棄したんだ。


「うん……颯太、ありがとう。颯太の気持ちを聞けて……私は嬉しいよ!」


 涙で赤く腫れたまま――葵は満面の笑みを浮かべる。


 そして、時間が来て……始まるプラネタリウム。


「これが夏の大三角形――」


 プラネタリウムの説明なんて――俺は全然聞いてなかった。何故なら……葵がキラキラした目で嬉しそうに、天井に映し出される星々を眺めていたからだ。

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