第四話・マリア様の黄金
◆
まりあ「カウンターにサイフォンが沢山……、あっ、オシャレな手回しのコーヒーミルがある! これ完全にプライベートカフェだ……」
香平 「そういう言い方すると、途端にセレブ感が溢れ出すけど、まあ趣味にお金使っちゃってる分、たいしてセレブでもないっていうか」
まりあ「ところで"喫茶 AOYAMA"って?」
香平 「ここ使うときのルールなんだ、忘れてくださいお願いします……」
まりあ「オーケー把握した。やはり一度こーへーくんのお父さんにはご挨拶が必要なようですな。折をみていつぞや」
香平 「勘弁してほしいな……想像しただけで胃が痛いよ……」
…………
香平 「さて、それじゃあ始めるとしますか」
まりあ「おっ、カフェエプロンとやらじゃないか! 中々どうして、センセイもサマになっておられる。
良いぞ良いぞー。そういう普段とのギャップ、乙女心にきゅんきゅんキてしまいますなあ!」
香平 「もう発想が完全にオッサンのそれなんだけど……まあいいや。香りや音を楽しみつつ、適当に寛いでて」
まりあ「………えへへ。二人っきりのおうちデートだ」
香平 「……ん? 何か言った?」
まりあ「なんでもなーいよ! さ、続けて続けて」
…………
まりあ「これ、コーヒー豆? へえ、焙煎前はこんな色なんだね……黒くないし、香りもない」
香平 「そしてこちらが焙煎した豆になります、お客様」
まりあ「わあ、いきなりコーヒーの香りになった! っていうかすごいツヤッツヤのテカッテカだ!」
香平 「今回はこちらの三種類の豆をブレンドいたしまして……さ、このコーヒーミルで挽いてみてよ。ちょっと大変だけど、クセになるよ」
まりあ「んぐぐぐぐ、結構固い……あっ、回った! こう、こうか!? ここがええのんか!? というか今日はなんか、こーへーくんもノってるね?」
香平 「実はちょっと浮かれてるんだ。練習したり準備したりしてたら楽しくなっちゃってさ。自慢したくなったっていうか。
ほら、話してないで集中。結構力要るし、その割に一度に挽ける量は少ないんだけど……」
まりあ「わ……あ……すごい。コーヒーのお花畑にいるみたい……。挽きたてのコーヒーの香りって、こんなに良い匂いなんだ……」
香平 「クセになっちゃうのも分かってもらえるかな。なんだか、父さんがハマったのも分かったような気がするよ」
…………
香平 「はい。頑張って聖川さんが挽いた豆で、淹れたてコーヒーの出来上がりだ」
まりあ「いや途中でギブって文明の利器に頼りましたがな旦那。とはいえ、なんだか愛着湧いちゃうかも」
まりあ「ん……あっ。美味しい。すごいよ、すごく美味しいよ香平くん。なんだかとっても、優しくて、穏やかな味がする」
香平 「父さんに教えてもらいながら、一応、僕がブレンドを考えてみたんだ。……聖川さんの事、考えながら」
香平 :そういって僕は、隠していた包みを聖川さんに差し出す。
多分これが、いま僕にできる、せいいっぱいの勇気。
まりあ「香平くん、これ……」
香平 「本当は誕生日に渡したかったんだけど、学校じゃ、その、恥ずかしいし。ちょっと早いけど、誕生日プレゼント」
まりあ「ん? 何か書いてる。コーヒーの名前? Marig……まりぐ?……まりご……? ええと」
香平 「『マリーゴールド』。キミの事を想いながら、今の僕にできる一番のコーヒー。だから――――」
香平 「ちょっと早いけど、誕生日おめでとう。マリー」
まりあ「こうへい、くん……」
香平 「……名前で呼ぶの、恥ずかしいから。……あだ名でもいいんでしょ、マリー」
まりあ「ふふっ。無理しちゃって。香平くん顔真っ赤だよ? でも、私も正直ドキっとしちゃった。すっごく嬉しいよ。香平くん」
香平 「そういうとこばっかり、しっかり女の子になるんだから……。ホント、マリーはズルい」
まりあ「それはそうだよ。だって女の子は誰でも――――乙女回路は標準装備なんだからね」
…………
まりあ:誰も知らない、二人だけの誕生日。
香平 :ある意味今日は本当に、誕生日だったのかもしれない。
まりあ:彼が付けてくれた『マリー』という愛称。
香平 :正直まだまだ慣れないけど、勇気を出してよかったと思う。だって。
香平・まりあ:二人の間に、確かにマリーゴールドは咲いたのだから。
◆
[END]
マリーゴールド 結城恵 @yuki_megumi
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