完成直前になって物語の幕引きに悩み始める、締め切りギリギリの作家さんのお話。
コメディです。コテコテの、と言ってはちょっとおかしいかもしれませんが、なんとなく予定調和な展開をふんだんに盛り込んだ、ある種のお約束感が楽しい物語。それも読み始めてすぐノリが掴めるので、「オッケーそういう話ね!」と肩の力を抜いて読むことができます。個人的な分類では癒し系。突拍子のなさや愉快な発想力、間の取り方はずし方も丁寧なのですが、それ以上にこちらのガードを解くのが巧みという印象です。
なにしろ冒頭からしれっとベタなところを突いてくるというか、いきなり主人公がこちら(読者)に語りかけてくるんです。それも別に何らかの台詞とかではない、いわゆる『第四の壁』を超えてきているのだというのがすぐにわかる。そのまま手早く状況の説明を済ませて、次に出てくるのは何と『良心』と『絶望』。主人公の脳内に住む別人格、というかいわゆる天使と悪魔の綱引きみたいなアレです。
いやこれこうして書いちゃうと本当に良さが伝わらないと思うのですけれど、でもここまでの流れがもう本当に心地よいんです。なにこのわかりやすさ!? だいたい道具立てがここまでベタだと、どうしてもある種のチープ感が出てしまいそうなところ、でも全然そんな感じは……いやしなくもないんですけど、でもそれすら折込済みで面白みに変えてしまっている。何でしょうかこの抜群の安定感。結構ピーキーなはずのいろんな要素を、しれっと武器として使いこなしている感じ。
というわけで普通に笑いながら読んだので満足なのですが、特に好きなところを一点挙げるのなら、やっぱりアレです。中盤の。『良心』と『絶望』の次に来た人。どう見てもヤバイ人。もうめちゃくちゃ笑いました。なにこの設定好きすぎる……っていうかひとりだけいろいろ豪華すぎません……? ラストなんかはもう衝撃でした。いい話風、いやそんないい話でもないけど、でもそれ以前にアイツどこ行った!? いいの!? あんな〝魔〟をその辺に放ったままで! みたいな衝撃。もうほんと好き……。
笑いました。何だかとっても好きな感じの作品。安定感のある語りで攻めてくる話かと思えば、こちらが油断したところでしっかり飛距離を出してくれたりもする、ベタでありながらも多彩な作品でした。短さとわかりやすさを突き詰めたような文章の技巧が好きです。