魔羅ネード6 ラスト・エレクション
辺りは悲惨な有様であった。うち壊れた家屋や陥没した地面、折れた樹木などを見れば、
「……笑いごとじゃないのは分かってるんだけどさ、あれ見ると笑っちゃうよな」
瑞月が指差した方には、金色に輝く大魔羅槌があちこちに転がっていた。大災害をもたらしたものとはいえ、それが地面に散乱しているさまには、何処か笑いを誘うものがある。
弓弦はそれを見てくすっと笑った。
「弓弦……やったんだな……」
「僕だけじゃない。瑞月も、ゴリラも、皆で竜巻と戦ったんだ」
二人は向かい合い、真っすぐ見つめ合っている。
「……頼むからもう危ない真似はやめてくれ。弓弦が死んじまったら俺はもう……」
その綺麗な目に涙をいっぱいに溜めながら、瑞月は弓弦に抱きつき、薄い胸板に顔を埋めた。
「僕は死なないよ。瑞月。だから悲しまないで……」
弓弦はひしと瑞月を抱き返し、結わえられた艶やかな後ろ髪をそっと撫でた。この時、弓弦の紅潮した頬は、ゴリラ以外に見られることはなかった。
弓弦は天に願った。どうか、自分と瑞月の仲が、末永く続きますように。死が二人の間に隔膜を張る、その時まで……
***
翌年行われた「かんまら祭り」の様相は、去年とは一変していた。
しかし、その代わりに、参加者の目をひときわ引くものがあった。
「ねぇ見て見て、ゴリラがおちんちん抱えてるー」
未就学児と思しき男児が、それを指差しながら母親に話しかけた。人差し指の向く先には、太い腕で金色の男根を抱えた、黒いゴリラの像が鎮座していた。
人々は、未曽有の災害に立ち向かった英雄――ゴリラを称えて、この木像を神川神社に奉納したのであった。ゴリラは町にとって、まさに守り神であった。
***
弓弦と瑞月は隣の市にある動物園を訪れていた。二人は他の動物は後回しにして、一直線にゴリラの群れのいる展示場へと向かった。
ニシローランドゴリラのブロディ。それが、輸送中の交通事故で脱走したゴリラであり、同時に竜巻と戦ったゴリラでもあった。
弓弦が竜巻を爆破した翌日、神川区の市街地を歩くゴリラが発見され、警察によって捕獲された。そのゴリラは隣市の動物園に輸送されている途中に檻を運ぶトラックが事故に遭い、脱走していたゴリラだと分かったのである。その後、このゴリラは動物園で
「ありがとう……」
弓弦の口から、自然と感謝の言葉が出た。
弓弦はゴリラの姿を見ながら、一年前の戦いのことを思い出した。目の前のゴリラのおかげで、今こうして自分は瑞月のいるこの世界に生きている。
中学二年生になって、歴史研究会にも後輩が入部してきた。来月には後輩を連れて例の戦国博物館に行くつもりである。
ふと、弓弦の手に、何か触ったような感触があった。
それは瑞月の手であった。二人の距離が近かったせいで、手同士が触れ合ったのである。
弓弦の頬が、林檎のようになる。瑞月は横目でちらと赤い頬を見やると、穏やかな微笑を浮かべながら手を握ってきた。
魔羅ネード カテゴリー・ゴリラ 武州人也 @hagachi-hm
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