第57話 過去と未来

 良かったーしっかり戻ってこれたー。

 いきはよいよいかえりはこわい、とは良く言ったもので。

 そして戻ってきた私の目の前には、ガーリーさん親子が固まっていた。

「ちょっとエリィちゃん!? ここどこやねん!?」

「フェルディナント爺さんの鍛冶場」

「そーゆーことちゃうやろ! もっと他に説明することあるやろ!?」

「【ゲート】でここまできましたーってことで」

「【ゲート】て……あのな……なんやねんな、もう……」

 ガーリーさんは頭抱え込んでぐったり。ごめんね急いでたので。

 そーれよりも、だ。

「フェルディナントか……」

「ガドガネル……」

 二人はじっとお互いを見つめていた。少しの時間を経て、口を開いたのは……

「お前ホンマ何考えてんねん! エルフなんぞにパシリさせよって!」

「その嬢ちゃんは信用出来る! そいつはワシの見込んだ娘や!」

「せやったらなんでこんなトコおんねん! ここ東都やぞ!」

「東都……? 嬢ちゃん、国境越えたんか!?」

 私の方をぐりんと向いてシャーッ! ってしてくるギルマス。ちょっとびっくりした。

「え、ええ……西に向かおうかと」

「西か……ま、それもええかもな」

「ええ訳あるかい! このままやったら酒が届かんかったんやぞ!?」

「ワイは……このまま酒なんぞ届かんくてええとすら思っとった」

「なんでやねん! 酒が無いと戦が始められんやんか!」

「ワイは今でも反対や」

「ガドガネル卿!?」

「冒険者ギルドで……ずっと人を見てきた。そこでは、色々な種族の、色々な顔が見れる。だぁれもそんな戦争なんぞ望んどらんわ」

「そらそうや! 戦なんて好きで始めるもんと違うわ! けどな、ワシらは帰る家が、故郷が奪われてしもた。それを取り戻す戦いを起こして何が悪い!?」

 フェルディナント爺さんが、吠える。

「そもそもや、あの戦いに納得しとらんのはお前もワシも一緒のはずや! あんなん負けたウチに入るかい!」

「それは……」

「ほれみぃ! ドワーフである以上、あんな負け方したかてスッキリする訳ないやんか! ……もう既に殆ど準備は終わっとる。もう少しや……もう少しで……」

 フェルディナント爺さんは、どこか遠くを見ていた。それは懐かしい故郷を見ているようにも、過去の妄執に取りつかれているようにも思えた。

「おいエルフ! 酒あるならはよ出さんかい!」

「えっ?」

 私に飛び火してきた。どうしよう。

「エリィ! 渡したらあかん!」

 ギルマスは私を止めに入る。

 困ったなぁ……どうしよう。

 でも言えることは一つある。

「私の持っているお酒は、ギルマスにお土産として頼まれたものなので、フェルディナントさんに渡すつもりはありません。受け取るならギルマスからにして下さい。その辺の話はしっかりとつけてください」

「な、なんやとぅ!?」

 そう言い残して、私は部屋を飛び出してしまった。

 だって……どっちの気持ちも分かるから。

 戦争なんてしたくない。でも故郷は取り戻したい。

 人が死ぬのは嫌だ。故郷を奪われたまま死ぬのは嫌だ。

 二人の気持ちがぶつかっているのに、私なんかが片方の味方をするだなんておこがましいことは言えなかった。

 だから、私は解決を投げた。

 ……これは、私の踏み込んでいい問題じゃないから。

 そんな私を追いかけてきたのは……。

「エリィちゃん……」

「お姉さま……」

 ガーリーさんとミレイだった。

「ねえ、二人はどう思うの? あの話」

 二人は顔を見合わせて……だが答えない。

 沈黙が場を支配する。隣の部屋からは怒鳴り声が聞こえてくるのに。

「ウチは……故郷に戻りたい」

「ガーリーさん……」

「でも……誰かを傷つけてまで取り戻したいとは思わない。そしたら今度は、今住んでる人達を追い出さなあかんやん? それはまた、故郷を失う人が出る。彼らはまた、私達の住む土地を、故郷を取り戻す為に戦をする。そんなんは嫌や。また戦乱期に逆戻りや」

「そう……だね……」

 本当に……どうすれば……。

 結局のところ、土地が無いのが問題なのでは?

 土地が……土地……土地……

 そうだ!

「ねえガーリーさん、ドワーフが一つになれる土地があればいいの?」

「え? うーん……どうやろうなぁ……故郷がそら一番やろけど、皆で仲良ぅ暮らせる場所があれば……鍛冶が出来て、酒が飲めて、多少は魔物が出て、適度に戦いがあって……そーゆー場所があれば、納得する人もおるんちゃう?」

「だったら……」

「なんやエリィちゃん、そんな場所に当てがあるんか!?」

「無いよ!」

「おい」

「だからこれから探すの!」

「はぁ!? どーゆーことやねん!」

 私は両手をいっぱいに広げて、ガーリーさんに夢を語った。

「西の海から船を出して、これから新大陸を探しにいくの! そこでいい場所があったら、ドワーフ皆で移住すればいいんだ! そうだ! そうだよ!!」

「なんやそれ……またけったいなこと言いはじめよったわ」

「まあ、分からなくもないですけどぅ……お姉さまはまた無茶を言い出しましたですぅ」

「よし、そうと決まったら作戦会議よ!」

 私は元の部屋へと戻っていく。

 後に残されたのは、二人。

「はぁ……行かんとな」

「はいですぅ」

 そこに、そっとリンドゥーが顔を出した。

「……姫様……」

「わ、私は先に戻るですぅ」

 リンドゥーと、ガーリーさんは、お互いをじっと見つめ合う。

「ひ、久しぶり」

「せやな」

「げ、元気に……してたかしら」

「ま、ぼちぼちや」

「そう……」

 また、無言になる。

「あのエルフの嬢ちゃん、凄いやろ?」

「ええ!」

「おもろいやろ!?」

「ええ!」

「アイツに任しとったら、なんか何とかなる気がすんねん!」

「分かるわ! ご主人様ならきっと! きっと解決してくれるって!」

「ご、ご、ご主人様ぁ!?」

「あっごめんなさい! 今のは聞かなかったことに」

「あンの小娘ぇ、ウチの姫様に何させとんねん!」

「お願いガーリー! このことはあの二人には」

「いやそりゃ言わんけど……言ったらめんどくさいの目に見えとるし……でも何があったかくらいは教えてくれてもええんちゃう……?」

「えっと……」

「ウチと姫様の仲やんかぁ。あーウチうっかり口滑らしそうやーあかんわー」

「ちょっとガーリー!」

「まあええわ。ウチは姫様とまた会えただけでも嬉しいで」

「……私もよ。もうそういう気持ちは……捨てたはずだったのに……」

 二人は、扉の向こうを見る。

「ドワーフの危機を、エルフが救うんか」

「ホント、おかしな話」

「全くや」

「ふふっ」

「あはははっ」

 リンドゥーもガーリーさんも、何がおかしいのか良く分からないまま、こらえきれぬように笑った。

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美少女おじさん ~ちやほやされたいので異世界転移でカワイイ美少女になることにした~ @elll

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