第56話 フェルディナント
奥の鍛冶場に入ると、そこは店側と違い、随分と綺麗になっていた。
やはりドワーフたるもの、鍛冶場は神聖な場所なのだろうか。
でもそこでお茶飲んだりしてもいいのだろうか。
……とか思ってたけど特にお茶とかは出てこなかった。
「姫、むさくるしいところですが」
「いいのよ。鍛冶場に来ると、色々と思い出すわ……」
二人はどこか遠くを見ていた。ノスタルジックであーる。
と、そこに茶々を入れるようにシグさんが。
「なあリン、そろそろ話してくれるかね? まあ大体察しはついてるんだけどさ」
リンドゥーは居住まいを正して、私達に紹介してくれた。
「彼は……フェルディナントと私達は読んでいます。私達の……ドワーフの王国の元軍務卿です」
「軍務卿ってことは……軍関係の一番上ってことです?」
「ええ。おっしゃる通りです。彼は戦の時にもいつも先頭に立って戦っておりました」
「おいおいちょっと待てよ!? そんなことしていいのか!?」
確かに。アシンさんの言う通りだ。一番偉い人が最初に突っ込むのって軍としてあかんくない?
「フン、旧人族と一緒にして貰っては困るわ。儂らドワーフとは戦場に突っ込んで武器を振り回すのが習わしよ。そんなことが出来んもんが軍で上に立つなどあり得んわ」
なるほどな……文化違いすぎでしょ。
あとギンシュちゃんは抑えて抑えて。気持ちは分かるけど……爺さんに言葉直せとか無理だよ。ただでさえ頑固っぽいし。
「ちょっと聞きたいんですけど、なんかドワーフって特殊な名付け方ありませんでした?」
「言われてみればですぅ」
「えっと、彼の本当の名前はサーリーです」
「姫、それは……」
うわ爺さんめっちゃ困ってる。これもガーリーさんと同じ系統なのかな?
「意味聞いてもいいです?」
「やめんか! 今は儂の名前なぞどうでもよい! それよりも姫はなぜこのような所へ!?」
あっサーリーさんことフェルディナント軍務卿さん、無理矢理話戻した。ぐぬぬ。
「えっと……皆さんと旅をしておりまして、これから西の海へと向かうのです」
「なぜ西へ? 我らの故郷は東ではないですか?」
「フェルディナント卿、私達の国はもう亡んだのですよ」
フェルディナント爺さんは机をダン! と叩いた。
「我々はまだ負けておらぬ! 旧人族など戦をすれば簡単に捻り潰せる! 戦の機会さえあれば……」
「フェルディナント、やめて下さい。もう世界は平和になっているのです」
「何を言うのですか姫!? 姫さえ折れば我々ドワーフに酒神の加護がついたようなもの! 旗頭になっていただければ、間違いなく勝利をお約束致しますぞ」
「あなた……その言葉……」
今の言葉を聞いたリンドゥーは、顔色が一気に青くなる。
「ちょ!? どうしたのだリンドゥー!?」
「貴様! 旧人族のくせに気安く姫に触れるでないわ!」
「ええいいい加減腹が立つぞ! エリィもうやって構わないか!?」
「やめなよギンシュ……今ここでお爺さんと戦ってもしょうがないよ」
なんだろうなぁ。どっちの気持ちも分かるけど、どっちも面倒くさいことになっちゃってるなぁって。
負けてないって思うフェルディナント爺さんの気持ちも分からなくもないし、また戦乱期に戻るのもどうなの!? って思うのも分かるし。でも故郷の土地を騙し討ちで取られて追い出されて……そりゃ無念だよねぇって。
青い顔になりながらも、リンドゥーは彼に詰問した。
「フェルディナント……どこまで進んでいるの?」
「計画は最終段階ですぞ。あとは『例の酒』さえ手に入れば……それもガドガネル卿が準備をしておくとのことでしたので……」
「例の酒?」
「貴様らには関係のないことじゃ!」
フェルディナント爺さんは怒鳴るけど、私はリンドゥーに聞いてるの。
リンドゥーに目を合わせると、彼女は教えてくれた。
「ドワーフは戦の前に酒盛りの儀式をするのだけれど、その儀式の意味合いなどによって最後に飲む酒を決めるの。そして今回のような『故郷へ想いを募らせた復讐戦』ともなれば……」
「そう、『星の欠片』じゃ!」
あーやっぱり。
それねー王都でねー苦労して見つけましたよー。
エルフにゃ売らんって言われたけどガーリーさんの名前出したら全部もってけって言われてさぁ。
今もアイテムボックスの中なんですよねぇ。
えっそんな話してなかった? そりゃあ全部いちいち話してたら進まないからねぇ。
まあその辺の話はおいおいするとして。
「ねぇ……ガドガネル卿って、もしかしてガーリーさんのこと?」
私の言葉に、フェルディナント爺さんはぎょっとした反応を見せる。
「なっ……なぜエルフ如きがその名前を知っておるのだ……」
「いや……色々お世話になったし……ねぇ」
「はいですぅ」
私とミレイはお互いを見てにやりとする。
やっぱりだ。やっぱりこちらは彼の大事なモノを、急所を掴んでいる。
「『星の欠片』って……これでしょ?」
私はそっと一本取り出す。
「なっ!? なっ!? なぁああ!?」
フェルディナント爺さん、驚きを隠せませんなぁ。
「実はねーお使い頼まれててねー、でもどうやって渡そうか迷ってたんだけどねぇ……」
さてさてどうしようか。
「なんかめんどくさくなってきたし、当人呼ぼうか」
「は?」
全員がこちらを見る。にっしっしー私は特別な【空間魔法】を使えるのじゃー。
ということで【ステータス】からマップを開いて、ピピーナの町にチェックをして。
「じゃあちょっくら呼んできますねー」
と言って私は皆の横で【空間魔法】を使う。あー今回は折角だし【ゲート】っぽいのやってみようかな。
空間を縦の長方形で扉みたいに囲って、それでそこと向こう側を繋いで、っと。よしこんな感じかな?
なんだか空間がうよんうよんいってて怖い。なんかエネルギーとか漏れたら暴走しそうな感じ。
で、ここで更に魔力をえいっと流し込んで、無理矢理二つの扉を繋いでいく感じで……こうかな?
よーし多分完成。ちょっと手でうよんうよんいってる所を突っ込んで……大丈夫かな?
ではではっ、さらばじゃ!
私は顔から元気よく飛び込んでいった。
「よーし出た出たっと」
場所はピピーナの冒険者ギルドの裏庭である。きっとここなら見られてないだろうと思って。
裏から行くのは変だけど、まあちょっと許してねって。
それで裏の廊下からカウンターの方へ行くと、時間が時間だからかまったりしてた。
そんな中私を一番に見つけてくれたのはガーリーさんだ。
「おーおかえりーエリィちゃん! なんか結構早かったんちゃう?」
「ねぇガーリーさん、ギルマスいる? 緊急の話なの」
「ん、急ぎか。ちょーまって呼んでくるさかい」
「私も一緒に行かせて」
結構切羽詰まった感じでお願いをすると。
「ま、まあええけど……エリィちゃんなら悪い事せぇへんやろし」
了承してくれた。ありがとうガーリーさん。
そして階段を昇ってギルマスの執務室へ。
「ギルドマスター、エリィちゃんが来てんでー緊急やて」
「なんやて!?」
ギルマスが慌てて飛び出してきた。扉が当たる。痛い。
「お、おぅ悪かったな嬢ちゃん。それで緊急ってどないしたんや」
「あいたた……急いで来て欲しい所があります」
「なんやそれ。どこや?」
「フェルディナント爺さんの所です」
私の言葉に、一気に目が細まるギルマスことガーリーさん。
「お前さん……もしかして聞いたんか?」
「ちょこっと。それで話して貰おうと思って」
「今更ワシが出てってどないなんねん」
「今ならリンドゥーさんも会えます」
私の言葉は、相当に爆弾発言だったらしい。
「なっ、なんやて!?」
「えっ姫サンおるん!? うわーウチも会いたいー」
「じゃ三人で行きますよ。こっちです」
「お、おいワシはまだ行くなんてゆーとらんで」
「お酒要らないんです?」
「いや、あれは……その……」
「いいから! 早く来て下さいよ」
私はギルマスの意志など気にせず、とにかく裏庭へと走っていった。
「じゃあここ通りますからね」
「なんやこれ」
「私の魔法です。すぐですから」
「お前さん……これ……」
「いいから! ガーリーさんもほら!」
「わーい」
「お前はついてくんな」
「いややーウチの勝手やー」
そのままさっさと扉に押し込み、私も扉をくぐってまたフェルディナント爺さんや皆のいる鍛冶場へと移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます